28 Jun 2019
記憶、不安、夢…無いものを形で表現した塩田千春展など開催中の注目アート 7月号G’s REVIEW

塩田千春[不確かな旅]2016年 展示風景:「不確かな旅」ブレイン | サザン(ベルリン) 2016年 撮影: Christian Glaeser
空間いっぱいに張り巡らせた黒や赤のおびただしい量の糸。塩田千春の作品を観ると、全身の皮膚感覚が刺激される。過去最大規模の個展では、大型インスタレーション6点を中心に、立体や写真、ドローイングなどを加え、20年にわたる彼女の活動を網羅的に体験できる。記憶、不安、夢、沈黙など、かたちの無いものを表現し、「不在のなかの存在」を一貫して追究してきた塩田。その圧倒的な世界観は、体ごと飲み込まれて感じるべし。
【塩田千春展:魂がふるえる】
期間:開催中〜10月27日(日)
場所:森美術館
▶︎https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/shiotachiharu/
『メスキータ』
[うつむく女]1913年 個人蔵 Photo: J&M Zweerts
鋭い切れ味の線描による大胆な構成。強烈な明暗のコントラスト。デザインとアートにまたがるサミュエル・イェスルン・デ・メスキータの作品は、今見てもスタイリッシュ。その影響は、だまし絵で有名なM.C.エッシャーにもみられるという。戦中、ユダヤ人であるがゆえに、強制収容所で亡くなったメスキータ。作品は、教え子でもあったエッシャーらが命がけで保管し、後世に伝えられた。謎に満ちたアーティストの全貌を、この目で確かめよう。
【メスキータ】
期間:6月29日(土)〜8月18日(日)
場所:東京ステーションギャラリー
▶︎http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201906_mesquita.html
[FALLOUT(The Japan Council Against Atomic and Hydrogen Bombs)]表紙 1957年
日本のグラフィックデザイン草創期に登場し、数々の伝説的なイメージを打ち出したデザイナー、粟津潔。「社会をいかにデザインするか」という視点を持ち続けた粟津は、原水爆禁止をアピールするポスターなど、同時代の社会問題にデザインで応答した。本展は、これまで粟津作品を調査してきた金沢21世紀美術館が、研究の集大成として開催するもの。複製こそ、ヒエラルキーのない「民衆のイコン」であるとした粟津の精神を感じたい。
【粟津潔 デザインになにができるか】
期間:開催中〜9月23日(月)
場所: 金沢21世紀美術館
▶︎https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1769
Recommender: 柴原聡子
アートと建築を行ったり来たりする編集者。地方開催の展覧会をきっかけに計画する旅もいいものです。
GINZA2019年7月号掲載