『わたしのいるところ』
(ジュンパ・ラヒリ/中嶋浩郎訳/新潮クレスト・ブックス/¥1,700)
散歩したい、あの橋を渡りたい、季節を感じたい、あの人とおしゃべりしたい、コーヒーを飲みたい。小説に書かれた感覚を追体験してみたい。イタリアのとある町での暮らしを語るのは、《誰かと人生を分かちあっているわけではない》女性。少女に《強くて独立した女》と憧れられることもあれば、同僚には《つきあいにくい人間と思われているようだ》。それでも続く暮らしから、細やかな物語を取り出し読ませてくれる。
『猫と偶然』
(春日武彦/作品社/¥1,800)
人は言葉によって世界を切り分ける。猫は切り分けない(かじったり無視したりはきっとする)。そんな猫の魅力を《境界性パーソナリティー障害(BPD)の魅力的な側面のみを寄せ集めた在りよう》と書くのは猫と暮らす精神科医。人を翻弄する小さな動物を手がかりに、小説、詩歌、演劇や絵画を手繰り寄せ、怪奇幻想作家ラヴクラフトのペットの名前を夢想したり、視力表を前に猫を羨んだりもする。連想のさざ波に身を浸すような心地のよいエッセイ集。
『恋人たちはせーので光る』
(最果タヒ/リトルモア/¥1,200)
詩人が息を吸う、吐く、また吸う。短い呼吸が連なるように、朝焼け、季節、人に骨、愛のこと、時代の記憶のこと、いろいろなことが書かれていく。最果タヒの指先から生まれた言葉が、祖父江慎のデザインによって紙の上を横切り、縦を貫き、ちりばめられて光を放つ。目が引き動かされ心が揺れて、詩人のイノセンスはきっとそのまま、読み手のエネルギーへと変換される。《ひとりぼっちの言葉》を書き、解き、放つ、43の詩を収めた7冊目の詩集。