22 Mar 2020
G’s BOOK REVIEW 書く行為の真髄を味わえる話題作『最高の任務』etc.

『最高の任務』
乗代雄介
(講談社/¥1,550)
日記を、手紙を、感想文を、書いて読む。描写する。回想する。そうして生きる語り手の姿が小説になっていく。大学生の姪が亡き叔母を想う表題作と、従姉への思慕が綴られる「生き方の問題」。2つの中編にはいくつもの時間が書かれ、流れている。言葉がこんなにも精緻な世界を築いて、物語が感情に触れてくる。これ一体、何層構造になってるんだ?と愕然とするのもまた楽しい。乗代雄介という作家のミステリアスな企みに翻弄される人生でありたい。
『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』
滝口悠生
(NUMABOOKS/¥1,800)
世界各地の作家や詩人がアイオワ大学に集まるインターナショナル・ライティング・プログラム。英語が話せず聞きとれず、《私の言葉がいまここにない》と感じていたYushoは、次第に《異なる言語に挟まれて自分のキャラクターが分岐していく、そのとば口にいるという感覚》を持つようになる。夏から秋への、長くも短くもある約10週間で、人も言葉も日常も少しずつ形を変える。出会いやがて別れることさえも、特別で幸福な営みなのだと気づく。
『雲』
エリック・マコーマック
(柴田元幸訳/東京創元社/¥3,500)
雨宿りに立ち寄った古書店で出合う『黒曜石雲』という名の本、青と緑の目をした母、鋼板工場で働く父。スラム街、荒野に囲まれた炭鉱の町、船で巡るアフリカ、南洋、南米の旅。失われていくいくつかの恋。作者と同様、スコットランドに生まれカナダにたどり着いた語り手の回想に、不思議な本にまつわる調査が挿入され、奇怪な美しさを湛えたイメージがちりばめられる。たびたび顔を出す謎も、時折覚える目眩さえも快い傑作長編。
Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。乗代雄介の過去作『十七八より』『本物の読書家』も最ッッ高です。必読です。
GINZA2020年3月号掲載