14 May 2020
G’s BOOK REVIEW 藤野可織『ピエタとトランジ〈完全版〉』女子バディものの短編がカムバック!etc.

『ピエタとトランジ〈完全版〉』
藤野可織
(講談社/¥1,650)
《トランジのそばにいるとみんな死ぬ》。事件を誘発する特殊体質を持つトランジと、高校で彼女と出会って以来、親友として、助手として、一緒に事件を捜査するピエタ。2013年に発表された女子バディものの短編が、エンタメ長編になってカムバック!目次には12の「事件」が並び、少女たちは年を重ねながら事件に挑み、それを楽しむ。80歳を越えたってアイスを食べ、そしてこぼす。オリジナルから読むか?長編に飛びこむか?どちらもおすすめです。
『チェリー』
ニコ・ウォーカー
(黒原敏行訳/文藝春秋/¥1,950)
ドラッグ、大学、従軍と帰還。ドラッグ、結婚と離婚、銀行強盗。現実が性に合わないアメリカ人の青年は、イラク戦争に派遣されれば、兵隊も軍隊も《全部ふりなんだ》と感じる。ヘロインを打っては期限つきの安らぎを得、薬を手に入れるために犯罪に歩み寄る。獄中で、タイプライターで書かれた文章は、リズムを変え場面を変えながら、人が抱える寄る辺なさをザクリザクリと掘り起こす。トム・ホランド主演で映画化も決定した話題作。
『エレンの日記』
エレン・フライス
(林央子訳/アダチプレス/¥2,400)
旅をして、ショーを観て、人と近しく語り合ってワインを飲む。写真、小説、映画、アート、猫、そしてもちろん雑誌のことをいつだって考えている。2001〜05年に『流行通信』で連載された「Elein’s Diary」が15年の時を経て1冊になった。書き手は、多くのクリエイターに影響を与えたフランスの雑誌『Purple』の創刊編集長。客観より主観によって、感性に形を与え、女性のヴィジョンを伝え、消費だけではない生活を綴る言葉が今に響く。
Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。痛快さと、痛快でなさと、生の言葉。人の目に映るものを見つめるように読む3冊。
GINZA2020年5月号掲載