29 Jul 2020
G’s BOOK REVIEW 香りに導かれて感情が躍る長編小説。千早 茜『透明な夜の香り』 etc.

『透明な夜の香り』
千早 茜
(集英社/¥1,500)
蔓薔薇、坂道から見える薄灰色の海、深い深い紺色の声。香りの話は色からはじまる。暗闇で花が咲くのを知り、雑踏で人を見つける嗅覚を持つ朔は調香師。彼のサロンにはオーダーメイドの香りを求めて人々がやってくる。家事手伝いに通う一香は《秘密のにおい》を抱えている。トップノートから香りに導かれて感情が躍る長編小説。シャンプーや化粧水を支給され、調香されるがごとく《手入れされ》る従業員と雇い主の関係がなんともロマンティックだ。
『月のケーキ』
ジョーン・エイキン
(三辺律子訳/東京創元社/¥2,000)
桃、ブランディ、クリーム、タツノオトシゴの粉にグリーングラスツリー・カタツムリを混ぜて混ぜて、満月の夜に作られるケーキは誰のもの?戸棚に隠れたバームキンは敵なの味方なの?死んだ人にお別れを言う方法は?“おおかみ年代記”や“アラベルとモルティマー”シリーズなどの児童文学でも知られる英国人作家が、1000年前の森の中から現代のスーパーマーケットまで、時空を行き来して集めた奇妙な手触りの13編を収める。
『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』
宇多丸
(新潮文庫/¥710)
オススメ映画を聞かれたら、まずは《「相手が本当に望んでいるものはなんなのか」を探り当てる》ための会話から。映画時評も長く続ける著者が、生来のオススメしたがり体質を蛇口全開にして、自転車通勤、旅への欲求、「男らしさ」への不満、ファッションの意味など種々雑多なお悩みに答える。1つの悩みに5本10本なんて当たり前。ビフォー/アフターで《決定的に変わってしまったと感じられるほど》の映画との「縁」を手渡してくれる人生相談本。
Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。本を読み、映画を観て、過去と未来を思って今を磨く。そんな日々もよいものです。
GINZA2020年7月号掲載