『透明な夜の香り』
千早 茜
(集英社/¥1,500)
蔓薔薇、坂道から見える薄灰色の海、深い深い紺色の声。香りの話は色からはじまる。暗闇で花が咲くのを知り、雑踏で人を見つける嗅覚を持つ朔は調香師。彼のサロンにはオーダーメイドの香りを求めて人々がやってくる。家事手伝いに通う一香は《秘密のにおい》を抱えている。トップノートから香りに導かれて感情が躍る長編小説。シャンプーや化粧水を支給され、調香されるがごとく《手入れされ》る従業員と雇い主の関係がなんともロマンティックだ。
『月のケーキ』
ジョーン・エイキン
(三辺律子訳/東京創元社/¥2,000)
桃、ブランディ、クリーム、タツノオトシゴの粉にグリーングラスツリー・カタツムリを混ぜて混ぜて、満月の夜に作られるケーキは誰のもの?戸棚に隠れたバームキンは敵なの味方なの?死んだ人にお別れを言う方法は?“おおかみ年代記”や“アラベルとモルティマー”シリーズなどの児童文学でも知られる英国人作家が、1000年前の森の中から現代のスーパーマーケットまで、時空を行き来して集めた奇妙な手触りの13編を収める。