20 Oct 2020
G’s BOOK REVIEW 渡仏した韓国人作家によるフランス語小説集『砂漠が街に入りこんだ日』etc.

『砂漠が街に入りこんだ日』
グカ・ハン
(原正人訳/リトルモア/¥1,800)
渡仏した韓国人作家が、初の小説集をフランス語で発表した。異国のことばで描き出される、雪、真珠、小銭、音を届けるテニスボール、砂粒と雨の粒。《ルオエス》という街で動き出す8つの物語の世界にいくつもの幻想が浮遊する。バスが人を運び、高層ビルの合間に空が見え、行き交う人々の顔はマスクで覆われている。描かれる風景は2020年の東京にもどこか似て、歩き、考え、境界を越えていく登場人物たちを近しいものに感じさせてくれる。
『アウア・エイジ(our age)』
岡本 学
(講談社/¥1,400)
《映写機の葬式》という6文字に手を引かれて小説の中へ歩み入る。立って映画を観、珈琲でうがいをし、スプーンを鳴らしてかっこむようにカレーライスを食す、《殺されそうな女》。映写技師のアルバイト時代に、語り手は女に出会って恋をして一緒に塔を探した。ミステリめいた断片が光を放ち、20年の時を経てにわかにつながっていくさまが美しい。人と人を結ぶ線は死を挟み込まれてもなお途切れないと教えてくれる、芥川賞候補にも挙げられた中編小説。
『百女百様〜街で見かけた女性たち』
はらだ有彩
(内外出版社/¥1,500)
色を、質感を、取り合わせを、好きだと思う。大阪で、神戸で、東京で、パリで、ハワイで、各地で見かけた女性たちの装いを手がかりに、目が引きつけられた、その心の動きに光を当て、言葉にのせて絵に描きつける。服飾の知識も歴史も個人的な思いと思い出も、まっすぐな言葉で投げかける。誰にとっても自分事である「装う」という行為を通して、前提を疑い、慣習からも抱えさせられていた痛みからも解放されよう、と手を差し伸べるエッセイ集。
Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。幻想と記憶と装いと。生きていくことを描いた白い本を3冊選びました。
GINZA2020年10月号掲載