『砂漠が街に入りこんだ日』
グカ・ハン
(原正人訳/リトルモア/¥1,800)
渡仏した韓国人作家が、初の小説集をフランス語で発表した。異国のことばで描き出される、雪、真珠、小銭、音を届けるテニスボール、砂粒と雨の粒。《ルオエス》という街で動き出す8つの物語の世界にいくつもの幻想が浮遊する。バスが人を運び、高層ビルの合間に空が見え、行き交う人々の顔はマスクで覆われている。描かれる風景は2020年の東京にもどこか似て、歩き、考え、境界を越えていく登場人物たちを近しいものに感じさせてくれる。
『アウア・エイジ(our age)』
岡本 学
(講談社/¥1,400)
《映写機の葬式》という6文字に手を引かれて小説の中へ歩み入る。立って映画を観、珈琲でうがいをし、スプーンを鳴らしてかっこむようにカレーライスを食す、《殺されそうな女》。映写技師のアルバイト時代に、語り手は女に出会って恋をして一緒に塔を探した。ミステリめいた断片が光を放ち、20年の時を経てにわかにつながっていくさまが美しい。人と人を結ぶ線は死を挟み込まれてもなお途切れないと教えてくれる、芥川賞候補にも挙げられた中編小説。