24 Dec 2020
G’s BOOK REVIEW 小沼純一の記憶と言葉と、森泉岳土のモノクロームの絵によって語りかけてくる『しっぽがない』etc.

12月のエンタメをレビュー!GINZA編集部がレコメンドする新刊をご紹介。
『今も未来も変わらない』
長嶋 有
(中央公論新社/¥1,500)
長嶋有は小説の中で遊ぶ。《食う類の泡》だなんて《スズキ・ジム夫》だなんて。40代、小説家の主人公には娘がいて友達がいる。《大人は楽しくなければ》ならないので、映画好きの大学院生との距離にときめき、スーパー銭湯やカラオケも満喫する。歌と映像と人と交わす言葉に彩られて、作家の感性の歯車が光を撒き散らす。小説が、人の、分化される前の感情を丹念に描いて、それはまるで愛のようだ。掲載誌を模したカバーデザインにも震える長編。
『しっぽがない』
小沼純一
(森泉岳土絵/青土社/¥1,600)
見えない、触れられないはずの愛が、犬の形に象られる。くるりと巻いた尾の向こうに景色を見せ、庭を走り抜けて野性を蘇らせ、リノリウムの床でかちりと音を立てる。三河犬、チャウチャウ、柴犬も、《うちはずっとマルよ》と言う母に名を与えられた《マル》たちの眼差しが、小沼純一の記憶と言葉と、森泉岳土のモノクロームの絵によって差し出され、ここに一緒にいよう、と語りかけてくる。掌編が静かに連なって愛するものたちとの日々を描く。
『これからのヴァギナの話をしよう』
リン・エンライト
(小澤身和子訳/河出書房新社/¥2,200)
ヴァギナはわかる、ヴァルヴァって何だ!? 女性器、性行為、妊娠、不妊、更年期、名づけられず、語られず、なかったことにされてきた私たちの体と性の話。《男性性と女性性についての頑固な概念を促進する家父長制》を疑う。データを足掛かりにそれらをまっすぐに見据え、《私は私のヴァギナ以上の存在で(…)自分の性器やジェンダーに定義されない人生を送る権利がある》ことを知る。そのために、今、読まれるべきエッセイ集。
Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。長嶋有さんの愛は強力。既刊『愛のようだ』『もう生まれたくない』などもぜひ。
GINZA2020年12月号掲載