年末に動画配信サービスを視聴する人も多いのでは?2020年話題になった日本のドラマを、ミクロにマクロにじっくり分析。全7回の連載でお届けします。新しい動きにも注目して。#日本ドラマの気になるTOPICS研究
シスターフッドや恋愛外の男女ドラマに期待。日本ドラマの気になるTOPICS研究 vol.7
作家・柚木麻子さん大いに語る
シスターフッドや恋愛外の男女ドラマに期待
少し話はさかのぼりますが、『ロングバケーション』(96)は、働かない、仕事が続かないヒロイン・南(山口智子)が、瀬名(木村拓哉)の家に転がり込むことで物語が始まります。昔から恋愛ドラマは、転がり込んで恋が芽生え、養ってもらってコンプリート、というのが多かったのですが、その系譜を終わらせたのが、『逃げ恥』。契約結婚をし、仕事として家事をやっていたみくりは、恋愛感情が生まれたために、家事の労働対価について考えざるを得なくなる。それは“養ってもらってコンプ”にはなかった視点です。さらに『凪のお暇』では、女性は自立のためには仕事を持つべき、というひとつの結論を提示した。ちなみに主人公の凪を演じた黒木華は、『獣になれない私たち』(19)で、元カレの家に居座るパラサイト無職女子・朱里を演じており、実はそれ、『ロンバケ』の南と同じ…。南は仕事をやめ成功した瀬名について渡米しますが、朱里は仕事を見つけ、自立していきます。
話は『凪のお暇』に戻り、袋小路にハマった凪を救うのは、前カレや隣人男子ではなく、職安で偶然知り合った女友達の坂本さん(市川実日子)。実はそこが、すごく注目のポイント。“家に転がり込み”と同様、女の足の引っ張り合いも、ずーっとドラマで描かれ続けてきたモチーフ。でも坂本さんと凪のような同性の友情は、現実世界の私たちにとっても、今必要なもの。ヒットした『恋つづ』でも、七瀬の恋の成就を同性の仕事仲間がそろって祝福していて、壁ドンや顎クイより、そこが何より最高でした。素晴らしいと思ったら、脚本を手がけたのが、日本が誇るシスターフッドドラマ『ナースのお仕事』シリーズ(96〜)を書かれた金子ありさだったんですね、なるほど納得。同性の連帯はこれからもっとドラマで描かれるべきだと思っています。
一方男性との関係は、主役は女性、2番手に男性、しかも恋愛以外の設定のドラマが、これから求められるのではないかと。その先頭を走っているのが『科捜研の女』。バリバリ働く主人公のマリコ(沢口靖子)の横にいるのは、仕事仲間としてマリコを尊敬し支える、刑事部の土門(内藤剛志)。何でもかんでも恋愛として描かないその姿勢自体に、フェミニズム的メッセージがあふれていると思うんです。『科捜研』って、小学生の女の子が意外と観ているんですよ。マリコのように、女性も好きなことを仕事にして思い切り働けるし、それを当たり前として捉える男性がいる。そんな世界観をテレビドラマから自然に学んだ世代が大人になっていく未来は、結構悪くないのではないでしょうか。(柚木麻子さん)
『凪のお暇』(19)
原作はコナリミサトの同名マンガ。空気を読むことに疲れた凪(黒木華)が、会社や彼氏とのつながりを断ち、風呂なしアパートで生活をリセット。前カレの慎二(高橋一生)や隣人のゴン(中村倫也)に翻弄されつつも、人生を切り開く物語。Paraviで配信中。
『科捜研の女』(99〜)
京都の科捜研の法医学研究員である榊マリコ(沢口靖子)らが最新科学捜査テクニックを用い、府警捜査一課の土門(内藤剛志)らとともに事件を真相解明に導く。スタートは1999年、昨年はシーズン19が1年を通して放送された。テレ朝動画で配信中。
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柚木麻子
1981年東京都生まれ。2008年オール讀物新人賞を受賞。代表作に『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』など。ドラママニアとしても有名。