8月のエンタメをレビュー!GINZA編集部がレコメンドする新刊をご紹介。
G’s BOOK REVIEW 倉数 茂の長編社会派ミステリー『忘れられたその場所で、』etc.
『忘れられたその場所で、』
倉数 茂
(ポプラ社/¥1,870)
少女を包む白い光景から始まる社会派ミステリー。東北の田舎町で発見された凍った死体を起点に、事件を追う刑事の視点と、もうひとり、2人、いや1.5人と数えるべきか、町に暮らす兄妹の視点が混ざり合って謎が姿を現していく。人の心の、善も悪もあったうえでの個別の凹凸を描く筆致は鮮やかで、挟まれる幻想は実在感をもって迫りくる。『黒揚羽の夏』『魔術師たちの秋』から続くシリーズの登場人物や設定を引き継ぎながら単独でも楽しめる長編。
『おめん』
夢枕 獏 作/辻川奈美 絵
(岩崎書店/¥1,650)
怪奇と幻想が心の隅まで根を伸ばす「怪談えほん」の最新作。《いやなやつ いるよね なんでもできる きれいなあのこ きらいなあいつ》と呟く少女の前に呪いのおめんが現れて……。ひらがなだけで構成される作家の言葉は短くしなって心を打ち、石に木材、植物までがぎしぎし動き出しそうな画家の絵が美しくも妖しい世界へ誘いこむ。《どんどろぼろぞうむ でんでればらぞうむ》という呪文も怖い! 監修と編集は名アンソロジスト・東雅夫。
『ファットガールをめぐる13の物語』
モナ・アワド
(加藤有佳織、日野原慶訳/書肆侃侃房/¥1,980)
《自分の体なんて嫌い》と呟く主人公。自分たちがどれだけ太っているか話し合っていた親友は《そのままで愛されるべきだし》と言う。主人公の恋人は2人で過ごす幸せな時間を知っている。服のフィット感、ランチのサイズ、空腹の時間とともに、体は絶え間なく変化し、心はいつも揺れっぱなしで、人から向けられる視線はいつまでたっても心地悪い。コミカルにめっぽう真面目に、自分の体を生きていくことを描く連作短篇。
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Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。倉数茂『名もなき王国』も傑作です。今月の1冊は倉数ワールドへの入門にも!