9月のエンタメをレビュー!GINZA編集部がレコメンドする新刊をご紹介。
G’s BOOK REVIEW 世界中で人気のドラマ原作『クイーンズ・ギャンビット』etc.
『最後の挨拶 His Last Bow』
小林エリカ
(講談社/¥1,760)
シャーロック・ホームズとそれを訳す父、文字を辿る指を見つめ、物語が体に取りこまれていくのを見つめる小さな娘。父母と4人の娘のファミリーヒストリーが、白く烟るロンドン、ベーカー街221Bに繋がり、1929年の弘前、戦前の満州、戦中戦後の金沢と2010年の東京に、震災と10年後に結びつく。いくつもの年号が取り出され、文字で記され光に刻まれる。《わたしはここにいるよ》という女の声が響く、人の生と時間を見つめた短編「交霊」を併録。
『クイーンズ・ギャンビット』
ウォルター・テヴィス
(小澤身和子訳/新潮文庫/¥990)
Netflixで世界に配信されるや6200万再生を記録したドラマの原作が、発表から38年を経て日本語訳された。主人公は8歳で孤児院に引き取られてチェスに出合い、9歳で高校生12人をいちどきに負かし、12歳で養家に移り住んでからはさまざまな大会で力をあらわしていく。「男の世界」で闘う少女の孤独と恐れ、精神安定剤や酒への依存と葛藤、恩人の用務員や養母、友人とのやりとりに心動かされるさまなど、細やかな描写も味わえる長編。
『鬱屈精神科医、怪物人間とひきこもる』
春日武彦
(キネマ旬報社/¥1,980)
鬱屈や偏屈といった言葉が誰より似合う精神科医が暗闇にうずくまって愛する映画について考えている。蠅男、武器人間、透明人間、物語の中で怪物に近づいていく小市民まで、異世界の断片として新旧の作品に登場する銀幕モンスターに親しむ時間。そこに文学や絵画、歴史、医学的見地などの膨大な知識が注ぎこまれ、記憶と妄想が補助材となって新しい見取り図が現出する。寄る辺ない心も投げやりな気持ちも無下にせず、掬い上げてくれるエッセイ集。
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Recommender: 鳥澤 光
ライター、編集者。4月から続く春日先生の新刊ラッシュ!お祭り気分で全部読みます。幸せです。