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俳優/高良健吾、写真家/平野太呂 etc.|24人の愛読書「私のいちばん好きな本」vol.2

俳優/高良健吾、写真家/平野太呂 etc.|24人の愛読書「私のいちばん好きな本」vol.2

俳優、デザイナー、スタイリスト…気になるあの人は何を読んでいるのだろう? 24人によるとっておきの1冊を、心に響いた一節を添えて連載でご紹介します。


 

吉開菜央
映像作家、振付師、ダンサー

吉開菜央©黑田菜月

 

favorite book

吉開菜央 このあたりの人たち 川上弘美

川上弘美『このあたりの人たち』
誰も行くことのない《スナック愛》、6人家族ばかりが住んでいる団地の呪い…。96年『蛇を踏む』で芥川賞を受賞した著者が、《このあたり》と呼ばれる《町》を舞台に展開する幻想的なストーリー。(文春文庫/¥580)

「から揚げをした鶏の骨は、きれいにしゃぶる。ものすごくきれいにしゃぶる。そういう鶏の骨は、まさに愛情の印ではありませんかね」 きっぱりと、校長先生は答えた。

 

フィクションと現実の間を音読で
旅して、物語を身体中で実感

26の掌編集なのですが、それぞれのテーマがゆるやかにつながっています。登場人物に感情移入するというよりは、ちょっと変わった人たちのお話をくすくすと笑いながら観察する目線で楽しんでいますね。引用したのは校長先生の言葉。彼は愛情表現のために、しゃぶった鶏の骨を好きな人の鞄に入れるんです。現実ではあまりないですよね。でも、ふとした瞬間にリアリティを持って迫ってくる。なぜか“わかる”んです。頭でわかるというよりは、身体にきます。うなじとか、二の腕の裏側とか、普段誰にも触られたくない箇所をつんつんとくすぐられている感覚。いつもは使わない部分がむずむずしてきます。「これはすごい!」と思いましたね。そこから川上さんワールドにどっぷりとハマっています(笑)。
ちなみに、音読だとその感覚がより味わえます。言葉と音が全身に染み渡り、黙読とは全然違う体験になると思いますよ。

 

 

近田まりこ
スタイリスト

近田まりこ

 

favorite book

豊饒の海 全4巻 三島由紀夫

三島由紀夫『豊饒の海』全4巻
「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」の4巻からなる壮麗な転生の物語。執筆に6年を費やしたこの原稿を書き上げた日に、三島由紀夫は衝撃的な割腹自決を遂げた。(新潮文庫 ¥710、¥750、¥710、¥590)

そのほかには何一つ音とてなく、寂寞を極めている。この庭には何もない。記憶もなければ何もないところへ、自分は来てしまったと本多は思った。
庭は夏の日ざかりの日を浴びてしんとしている。……

 

翻訳ってどういうこと!?を妄想した
言葉の筋トレ的大長編

好きな本はありすぎて1冊に絞るのが難しく、私の読書歴の中の特異な本を選んでみました。4巻目が発売された71年に外国に住むことになり、日本語の本が貴重な現地で何回も繰り返し読むことに。日本語の美しさ、漢字とかなの組み合わせの妙、物語をたどる面白さとそれ以上の感覚刺激の膨らみや複雑さ。それまでの読書体験とは違う新しい感覚や学びがあり、言語や文章について考えるきっかけにもなりました。
抜き出したのは、不思議な読後感に結びつくラストシーン。物語の中心にあった転生が、あってもなくても同じことのように語られる。人工的で技巧的で濃すぎるほどの美と語りにくらくらしながら長い間読み続けてきたら、最後にふわっと空の中に置かれる感覚。手元にある単行本は、外箱の画や光沢ある布張りなど心惹かれる装丁も、旧仮名遣いも魅力的。本は内容だけではなく、そのすべてで語りかけてくれます。

 

 

高良健吾
俳優

高良健吾 俳優

 

favorite book

高良健吾 俳優 火の誓い 河井寛次郎

河井寛次郎『火の誓い』
大正から昭和にかけて活躍した陶芸家である著者が、美しい物に隠れている“何か”を探求する様子を情緒的に綴ったエッセイ。人間国宝、文化勲章の認定を辞退し、ひたすらに陶芸美を追求してきた彼の考えとは。(講談社/¥1,300)

すべてのものは自分の表現

 

美しいものの本質は何なのか
不安を力に変えるための処方箋

20歳の時に尊敬している先輩からいただいた思い出の1冊です。芝居という仕事への不安に駆られた時には、この本から言葉を拾います。たとえば、寛次郎が世の中にある綺麗なものの本来の姿を思い浮かべながら、陶器に色付けをするシーンで説いた「噓を借りなければあらわせない真実」という言葉。リアルを表現する仕事ですが、噓をしっかりとつかまえることが大切だと変換し、心に留めています。
今回抜き出したものも先の一節と意味合いは似ていますが、僕はこの12文字にすごく共感しました。寛次郎は、電車や双眼鏡から作陶のヒントを得ます。つまり、表現というのは特別なこと(仕事)ではなく、すべて日常から生まれるものだと。芸能界という特殊な世界にいながらも、何が本当の人間らしさなのかを日々考えています。
ちなみに、いつでも誰かにプレゼントできるように家にストックしているんですよ。

 

 

平野太呂
写真家

平野太呂 写真家

 

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アイヌ神謡集 知里幸惠

知里幸惠『アイヌ神謡集』
19歳の若さでこの世を去った著者が生前に、アイヌ民族の間で謡い継がれてきたユーカラの中から選んだ13編の神謡。独特の発音にはローマ字を当て、さらに日本語訳を加えた、貴重な文化に触れられる1冊。(岩波文庫/¥580)

梟の神の自ら歌った謡 (Kamuichikap kamui yaieyukar,)
「銀の滴降る降るまわりに」 (“Shirokanipe ranran pishkan”)

 

出会う人、ものに尊敬を忘れない
先輩を鑑にして、自分を見つめ直す

出合いは私の子どもたちがきっかけです。ある日、学校でアイヌの踊りを習った話を聞いて、ふと家の本棚を見た時に見つけました。妻が昔買ったもので、興味が湧いて手に取りました。
まず、アイヌ民族には文字がありません。なので、長く受け継がれてきた神謡はすべて口伝。そんなユーカラを残そうと新しいことに尽力した知里さんに感銘を受けました。この本の存在価値はかなり大きいはずです。抜粋した謡は、貧乏な家の子が梟を大切に祀って、裕福になるというストーリー。彼らの暮らしを知ると、神様や自然との共存をすっかり蔑ろにしている現代の生活を省みることができます。また、日本は単一民族じゃないという認識も深まるでしょう。排外主義が蔓延る今の世の中だからこそ、この1冊を手に取って、忘れてしまった他人を思いやる意識を取り戻すことが必要なのではないでしょうか?

*記事は2020年10月12日時点の情報です。現在は価格等が変更となっている場合があります。

吉開菜央 よしがい・なお

生き物ならではの感覚を素材に映画を制作。「身体で音を感じられる、お風呂での音読がおすすめです」

近田まりこ ちかだ・まりこ

大好物はSF、好物は東欧、南米文学。でも結局は雑食系。「日本翻訳大賞」も毎年心待ちにして、美味しく完食。

高良健吾 こうら・けんご

映画『星の子』などに出演。風呂に長時間浸かりながらの読書が一番のリラックスタイム。

平野太呂 ひらの・たろ

武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。本誌など雑誌や広告にて活躍中。読書は移動中の新幹線や旅先で楽しむ派。

Photo: Natsumi Kakuto (book) Text: GINZA

GINZA2020年11月号掲載

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