2022年11月、〈アクネ ストゥディオズ〉が、17号目となる雑誌『アクネ ペーパー』の新刊を発売。現代アートの物語を広げながら、クィアカルチャーへの親しみも表明。発売を記念して、カプセルコレクションや展覧会も企画される。
『アクネ ペーパー』17号、50人以上のアーティストの作品を掲載。青山店では展示も
『アクネ ペーパー』は、芸術やカルチャーへの愛とリスペクトに満ちている。ファッションを豊かにするのは洋服だけでなく、社会に繋がるさまざまなクリエイティビティでもある。ブランドのそんなスピリットがもっとも純粋に表れているのが、もしかしたらこの『アクネ ペーパー』なのかもしれないとさえ思う。
2022年1月の復活後2号目、通算17号目となる今回は、本と雑誌のあわいをいくハイブリッドな刊行物。500ページの厚みのなかに50人以上もの作家の作品が掲載され、カルチャー、アート、ファッション等の分野が溶け合い一つのまとまりとして立ち上がってくる。アンディ・ウォーホルといった巨匠から、1990年生まれのペインター、アリアナ・パパデメトロプロスまで。ドロウイング、写真、彫刻などの作品メディアはもちろん、ジャンルも多様な作家が揃う豪華な一冊だ。
特筆したいのは、このイシューの柱部分が、架空の人物の物語をなしていること。2022年に100歳を迎えた「アティカス」は、現代アート史の生き証人。ダンサーとして活躍し、アート界の著名人となるまでの彼の半生が5章にわたって語られる。それは、伝記、小説、新聞・雑誌記事といった体裁を取りながら、分野を越えて描かれていく。そこでアティカスは、さまざまな才能を持つミュージシャン、作家、建築家、デザイナーらと出会い、親交を深める。
ページを繰るごとに、私たちは新たな表現と出会い、その芸術に恋をしていくことになる。いっぽう、アティカスは自身の恋人デスモンドとの関係も振り返る。その時代、彼らが愛し合うことは罪とすら見做されていた。この回想はそのまま、エイズの流行とそれによって失われた多くの才能の追憶に繋がる。
また、ダレル・エリス、アーチ・コネリー、 ジミー・ライト、ラリー・スタントンといった作家も特別ポートレートに登場。〈アクネ ストゥディオズ〉は彼らの作品に敬意を表し、エイズ関連の慈善活動のためのコラボレーションを実施。特に、37歳の若さでエイズによって命を落としたラリー・スタントンについては、その作品をプリントしたカプセルコレクションや、各国店舗での展示が企画されている。
さらに、ゲイとレズビアンの解放とLGBTQ運動の功績を記念して、『アクネ ペーパー』17号には一つのしかけが仕込まれている。それは、1978年にギルバート・ベイカーがデザインした8色のレインボープライド旗の色だ。
2022年という今、アートとカルチャーの100年を振り返る意味でも貴重な一冊となる『アクネ ペーパー』17号。もちろん、ファッションエディトリアルの視点からも楽しめる。実験的でポエティックな試みを、存分に味わいたい。