ようこそ、ポップ・アートのダークサイドへ。マイク・ケリー展がワタリウム美術館で開催中

マイク・ケリー。アメリカの現代アーティストのもっとも重要で影響力を与えたアーティスト。ソニックユースのアルバム『Dirty』のジャケットに使われた汚いぬいぐるみのポートレート作品や、キム・ゴードンとの交流、友人とやっていたノイズバンドなど、ポップスターのような存在でもあった。

彼のアートの世界は、アメリカの大衆文化やサブカルチャーを徹底的に観察し、そこに潜む社会の問題点をポップにあぶり出す。ポップ・アートといえば、アンディ・ウォーホルのような、きらびやかでみんなが憧れるかっこいいアメリカを思い浮かべるだろう。夢があって、おしゃれで、華やか、みんながビッグ・スマイル。でもケリーの作品はそこが巧妙に隠してきた、むき出しのアメリカがある。まさに“ポップ・アートの裏の帝王”。蓋を開けてみたら大変なことになっていた!そんな作品なのだ。

マイクケリー ワタリウム Mike Kelley マイク・ケリー展 会場風景 撮影:今井紀彰

今回展示されている作品のなかで一番多くを占めるのが、「Day is Done」という写真と映像、インスタレーションからなるシリーズ。映像には、高校の課外活動をモチーフにし、架空のへんてこな高校で起きるお祭りやセレモニー、イベントの様子が映っている。ちょっと込み入っているのだけれど、これは

1 ケリーがヤードセールなどで蒐集してきた高校のアルバムや素人の記念写真(いわゆる名もなきファウンドフォト)からこれぞという写真をピックアップする

2 それとそっくりの写真を再現してポートレートを制作

3 その写真のキャラクターをもとに架空のトラウマ的ストーリーを作り、B級ドラマ風の映像に仕立てる(脚本・演出・音楽など、そのほとんどをケリーが行う)

という作品なのである。

写真に写るキャラクターは、ハロウィンなのであろう、ドラキュラとか魔女みたいな変な恰好をした人や、文化祭の舞台?なのか、わざと田舎風の女子を演じているもの、ダンス部のステージ風のものもある。自分たちの学校生活を振り返っても、たしかに文化祭の出し物にはきわどいものが多い。ちょっと振り返りたくないような…….恥ずかしい記憶となって残る場合も多い。

それにしても、これらのキャラクターの残念さというか、トホホ感といったら!ドラキュラのクオリティも低いし、無駄に何人も出てくる(ボスと平社員風などヒエラルキーがある)。美女コンテストらしき映像に出てくるファイナリストは絶妙にダサく、審査員に徹底的にそのファッションや態度をディスられている。

マイクケリー ワタリウム Mike Kelley マイク・ケリー展 会場風景 撮影:今井紀彰

キャラクターの背景があまりに雑多なのも気になる。キリスト教の聖母マリアや生誕劇といった宗教的なものから、KISSのファンやゴス趣味のオタク、ホラー映画のキャラ、ヒッピー、自己啓発にハマる人、スピ系の人などのサブカルチャー、ハロウィンや仮装大会、地域のお祭りなどの身近な慣習や民俗など、いくらなんでもバラバラすぎるし、謎すぎる。

この感覚ってなんだろう?と考えていたら、マーベルの映画「アベンジャーズ」を思い出した。本来異なるコミックで、世界観もバラバラ、魔法使いと最新科学者と宇宙人と古代神話の王子なんて、一緒になるはずのないキャラクターたちが一緒に戦ったりする、あれ。

でも、アメリカで生活するということは、きっと膨大なチャンネル数のケーブルテレビで延々と垂れ流されるバラエティ番組やドラマや映画に、物心つく前から囲まれることだろう。そういう大衆文化と地続きに、彼らの学校生活や家族のしきたり、宗教があるのかもしれない。ケリーの言葉「映画、ポップソング、物語は感情のレベルでは現実のものなんだ」のとおり、彼らにとって、マスメディアやポップカルチャーは肉体化されている。そう考えると、「Day is Done」の脈絡のない世界観も納得できる。

マイクケリー ワタリウム Mike Kelley マイク・ケリー ファーム・ガール 課外活動 再構成 #9  2004-2005年 Art © Mike Kelley Foundation for the Arts. All rights reserved/Licensed by VAGA, New York, NY

マーベル・シネマティック・ユニバースでは、ヒーローたちが地球を救うために世界観を超えて協力し合う。けれどケリーのユニバースにヒーローはいない。そこにいるのは、なじみ深い“あるある”なキャラの姿をとった、えげつなく、差別的で、トラウマを抱え、安易な救済を求めるダメな者たちだ。彼らが漂わせる不穏な空気は、かつての輝かしい世界のヒーローとしてのアメリカの像が少しずつ崩れてきている悩ましさとリンクする。

でも、そこにはたっぷりのユーモアがある。ものすごくアイロニカルなのに、思わず笑ってしまう馬鹿馬鹿しさがある。それこそ、ポップの裏側への入口だ。

のほほんと暮らしている日々に潜むダークサイドに飛び込んでみよう。無事に帰還できるかどうかはあなた次第。その愉しくも恐ろしい世界は、私たちを深くややこしい思考へと誘うはずだから。

マイクケリー ワタリウム Mike Kelley マイク・ケリー展 会場風景 撮影:今井紀彰

 

マイク・ケリー(1954-2012)

アメリカのアーティスト。1970 年代後半より、パフォーマンス、ペインティング、ぬいぐるみやサウンドを用いたインスタレーションなど、多形態、多様式な作品を発表。ポール・マッカーシーやソニックユースとのコラボレーション、音楽活動やアルバムジャケットの制作など、アート以外の幅広い活動も行った。「ニューヨーク・タイムズ」によると、「過去四半世紀で最もアメリカ美術に影響を与えた一人であり、アメリカにおける大衆文化と若者文化の代弁者」とされる。

 

『マイク・ケリー展 DAY IS DONE 自由のための見世物小屋』
2018年1月8日(月・祝)~3月31日(土)
会場:東京都 外苑前 ワタリウム美術館
時間:11:00~19:00(水曜は21:00まで)
休館日:月曜(祝日は開館)
料金:大人1,000円 学生(25歳以下)800円 大人2人券1,600円 学生2人券1,200円 小中学生500円 70歳以上700円

*本展には記事で紹介した「DAY IS DONE」のほか、巨大なタペストリーの『Pansy Metal / Clovered Hoof』、1979年制作の初期作品『エクトプラズム#1~#4』、実在するバターのパッケージに描かれた少女をモチーフにした『Land O’Lakes』などを展示。同美術館では今回の展覧会を皮切りに、マイク・ケリーの様々な作品を今後も紹介していく予定。

Ginza_WEB_アート_柴原さん
柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など