アカデミー賞で話題『スター誕生』4作品を見比べ!古典の粋な演出が冴え渡るジャネット版。

アカデミー賞で話題『スター誕生』4作品を見比べ!古典の粋な演出が冴え渡るジャネット版。

毎年この時期は、運動会の次の日の小学生のように抜け殻状態になります。なぜなら、大好物の米アカデミー賞が終わってしまったから。例年はノミネート作品のなかで未見のものを観ることで、心の空隙を埋めるのがお決まりなのですが、今年はちょっと趣向を変えてみることにしました。じゃあ、何をしたのかって? 『スタア誕生』イッキ見です!

作品賞ほか全8部門にノミネートされた、ブラッドリー・クーパー監督、レディ・ガガ主演の『アリー/スター誕生』は個人的に大好きな作品で、最高賞に値するとも思っていましたが、それはともかくこの作品がリメイク作品だということはご存知でしょうか?

アカデミー賞で話題『スター誕生』

◆1937年『スタア誕生』(監督ウィリアム・A・ウェルマン、主演ジャネット・ゲイナー)

◆1954年『スタア誕生』(監督ジョージ・キューカー、主演ジュディ・ガーランド)

◆1976年『スター誕生』(監督フランク・ピアソン、主演バーブラ・ストライサンド)

◆2018年『アリー/スター誕生』(監督ブラッドリー・クーパー、主演レディー・ガガ)

として、『アリー〜』の前に既に2度もリメイク、3本の映画が製作されているのです。私は既に全部観ていましたが、細部はまったく失念しているので、この機会にもう一度観直して、それぞれどこがどう違うのか、徹底的に研究してみました。以下はその結果報告。ネタバレ上等の覚悟で挑んだので、そこだけご注意を。

それではまず、古典的ハリウッド映画の粋な演出が冴え渡るジャネット版から見比べをスタート。

スタア誕生 1937

『スタア誕生』(1937年)
監督:ウィリアム・A・ウェルマン
主演;ジャネット・ゲイナー

舞台となるのは製作年のほぼ同じ1930年代と考えられます。登場する女性たちが、服装はどれだけ地味でも、外出時にきちんと帽子を頭に乗せている姿からも、それは伝わってきます。 

ベースとなるストーリーのあらすじ
(ネタバレが含まれます)

エスター・ヴィクトリア・ブロジェットは銀幕のスターを夢見る田舎娘です。ある日、唯一の理解者である祖母に発破をかけられた彼女は一念発起、夢を叶えるべく故郷ノースダコタからハリウッドへと旅立ちます。

最初は仕事などもちろんありません。辛酸を嘗める日々が続きますが、運命の歯車がにわかに回りだしたのは、業界関係者が集うパーティで給仕のバイトをしているときのこと。憧れの映画スター、ノーマン・メイラーに見初められたのです(彼はヘベレケに酔っ払っていましたが……)。

ノーマンのゴリ押しにより映画会社に属した彼女は、ヴィッキー・レスターなる芸名をつけられるとすぐにその演技力の高さが認められ、あれよあれよとスターの仲間入りを果たします。とき同じくしてノーマンともめでたく結婚するも、彼はと言えば、生来の酒癖の悪さ(というか、アルコール依存症)がたたり人気は凋落、それによりさらに酒量が増え……と負のスパイラルに陥ることに。

事件が起きたのは、アカデミー賞授賞式でのこと。主演女優賞を手にしたエスターのスピーチ中に泥酔状態で現れたノーマンは、壇上にあがりクダを巻き始めてしまうのです。これに反省したノーマンはサナトリウムで治療に励みますが、退院しても彼にもはや居場所はありません。また酒に手を出して、警察の厄介になる始末。彼に寄り添うしかないと、エスターは引退を決意すしますが、それを寝室で聞いていたノーマンは、彼女にこれ以上の迷惑はかけられないと海に潜り自らの命に終止符を打ってしまいます。

失意のどん底で田舎に戻ろうとするエスターに、「辞めちゃダメだ」と発破をかけるのは、またしても祖母です。かくして、返り咲いた彼女は新作の試写会の夜、マイクに向かってこうスピーチをします。「私はノーマン・メイン夫人です」と。

 

古典的ハリウッド映画の巧みな演出に注目

本作が制作された1930年代は、ハリウッドの黄金期と呼ばれた時代。当時の映画はロケ撮影も多用される今の映画と違い、ほぼ専用の自社スタジオの中で組んだセットの中で撮影されています。そして、その中で俳優たちが演じる物語を、カメラから照明、編集に至るまで、専属の技術者たちによる洗練を極めた職人技を総動員し、無駄を削ぎ落として作られています。なぜなら、観客がなるべく疑問の余地なく物語に没頭できるように仕上げることが、当時のハリウッドの至上命題だったからです。それは本作も然り。

さすが古典的ハリウッド映画、随所に映画的なたくらみに溢れています。中でも、光と闇の演出は息を呑みました。例えば、エスターとノーマンが初めて口づけを交わすシーン。エスターの顔はノーマンの影で覆われてしまっています。

本来であればこんな見せ場で、女優の顔がよく見えないなんてご法度。しかし、当時はすべてスタジオで撮影されているわけですから、そこにも意図があると考えるのがスジでしょう。

では、なぜか? 理由はノーマンの死後に明らかになります。葬儀のシーンで喪服の彼女の顔にはベールがかかっているのです。したがって、キスシーンでのあの影はエスターがノーマンによって喪に服すことになることを、不吉に予告するための演出だったと言えるでしょう。

そう考えると、そもそも映画の冒頭のノースダコタの実家が、「ここは洞窟か?」と訝しみたくなるほど暗かったのにも合点がいきます。エスターは祖母の助けによって、ノースダコタという闇の世界からハリウッドという光の世界へと進出し、ノーマンの存在によってまた闇の世界へと立ち退きそうになるところを、祖母の助けによって留まることになるというストーリーが、光と闇の演出のレベルでも表現されているというわけです。

次回は容赦なくリアリティを追求した、1954年のガーランド版を見比べます。

鍵和田啓介 KEISUKE KAGIWADA

ライター。「POPEYE」「GINZA」「BRUTUS」など雑誌を中心に活動。著書に「みんなの映画100選」。今年、インディペンデントファッション雑誌「PENDING MAGAZINE」を立ち上げる予定。

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