作品賞ほか全8部門にノミネートされた、ブラッドリー・クーパー監督、レディ・ガガ主演の『アリー/スター誕生』。この作品がリメイク作品だということはご存知でしょうか?過去に公開された、4つの『スタア誕生』をイッキ見します。
◆1937年『スタア誕生』(監督ウィリアム・A・ウェルマン、主演ジャネット・ゲイナー)
◆1954年『スタア誕生』(監督ジョージ・キューカー、主演ジュディ・ガーランド)
◆1976年『スター誕生』(監督フランク・ピアソン、主演バーブラ・ストライサンド)
◆2018年『アリー/スター誕生』(監督ブラッドリー・クーパー、主演レディー・ガガ)
前回の容赦なくリアリティを追求したガーランド版から、時計の針はついに現代に。2018年のレディ・ガガ版『スタア誕生』を見てみましょう。ネタバレ上等の覚悟で挑んだので、そこだけご注意を。
『アリー/スター誕生』(2018年)
監督:ブラッドリー・クーパー
主演:レディー・ガガ
というわけで、ようやくガガ版の話です。これもまた、音楽業界が舞台ですから、どちらかというとバーブラ版の影響が強いと言えるでしょう。
恋に落ちる瞬間を4作で徹底比較
ただ、前3作でいうところのノーマンにあたるジャクソン・メインが、これまでの中でダントツにナイスガイです。また、恋愛映画においてもっとも重要なのは、「誰かが恋に落ちる瞬間をちゃんと描いているか?」だと個人的には信じていますが、その点においても、ガガ版は抜きにでていると思いました。
ジャネット版では、酔っ払ったノーマンが純粋にエスターのビジュアルに一目惚れしただけです。エスターは素人時代から彼のファンであるというエクスキューズがあるので、相思相愛になるのはわからなくもありませんが。
ガーランド版では、音楽ショーの舞台にノーマンが酔って乱入したのを、演者であるエスターが上手い具合にとりなしてくれるために彼は彼女を気に入り、すぐ後に今度はシラフ状態でエスターが歌う姿を見て惚れるという流れです。といって、最悪の出会いから徐々にいい感じになっていく過程を描くでもなく、エスターは最初から泥酔のノーマンを「いい人ね」とか言っちゃったりしていて、ロマンチックさに欠けます。
バーブラ版では、たまたまノーマンが入ったバーで、エスターが歌っていたのを見てその才能に惚れたという流れではありますが、一方で彼は別な酔客と喧嘩もしていたりして、ロマンチックさは弱い。また、4作のなかでもっともダメ男として描かれているノーマンにエスターが恋した理由も、また、さっさと別れない理由もよくわかりません。
一方、ガガ版において、ジャクソンはスタジアムでのライブ終わりに、酒を飲もうとたまたま入ったバーで、ドラァグクイーンとして歌うアリー(前3作でいうところのエスター)に一目惚れします。酒が入っているとは言え、彼女の歌にしかと耳を傾けて、表情がどんどんとろけていって、「ああ、こいつ惚れているな……」とわかるように撮られています。彼女はドラッグクイーンのメイクですから、顔ではなく才能に惚れたのは一目瞭然でしょう。
それ以外の点でもやることなすことナイスガイですから(酒さえ飲まなければ……)、アリーが惚れるのも納得です。その後、ジャクソンがアリーを自分のライブの舞台にあげてデビューさせてしまうというのはバーブラ版と同じですが、バーブラ版ではノーマンとエスターは共演しないのに対し、ジャクソンとアリーは最初デュオとして活動するあたりも、なんともロマンチック。まぁ、ジャクソンが惚れたのがアリーの才能であったからこそ、彼女がスターダムを駆け上がり、商業的な歌を歌うようになると、露骨に嫌な顔をしたりもしますが。
複雑な時代に合わせ描かれる家族問題
前3作では(ジャネット版の祖母を除き)触れられることがなかった、主人公2人の家族の物語が前景化しているというのも、ガガ版の特徴と言えるでしょう。ジャクソンのアルコール依存症も、原因は家族問題であることがそれとなく示されます。この辺はガーランド版と違い、ちょっとわかりやすくしすぎな感じもします。
ただ、そのアルコール依存症に端を発する自死については、今までとはちょっと違う手触りがあります。アリーはサナトリウムを退院した彼に、自身のライブに出てくれるよう誘います。最初は乗り気だった彼ですが、久しぶりのライブが近づき緊張したのでしょうか、つい酒に手を出し、そのままガレージで首を吊ってしまうのです。
彼はジャネット版&ガーランド版のように、シラフのときに自責の念にかられて自ら死を選ぶのではありません。もちろん、自責の念もなくはなかったでしょうが、どちらかと言えば、酒をやめられない自分のふがいなさを悔いて、酔った勢いで首を吊ったような感じなのです。アルコール依存症者の自殺としては、これはどの版よりもリアルな気がしました。
テーマの裏に隠された、ジェンダーの話
ちなみに、ジュディ・ガーランドもバーブラ・ストライサンドも、ゲイのアイコン的存在として知られています。だから、現代のゲイアイコンであるガガがこの役を演じるのは、極めて順当だと言えるでしょう。最初にスクリーンに登場するアリーがドラッグクイーンだったのは、そんな文脈に対するサービスだったのかもしれません。
こうしたジェンダーをトランスさせるような描写は、もうひとつ登場します。2人が一緒にお風呂に入っているシーンで、アリーが彼女のつけまつ毛やなんかを、ジャクソンにつけてあげるというのがそれ。これに類するシーンはバーブラ版にもあって、それはただじゃれ合っているだけという感じです。一方、ガガ版ではドラァグクイーン描写を挟んでから出てくるので、あたかもジャクソンのジェンダーをトランスさせているように見えるのです。そう見ていくなら、いっそのこと、アリーは男性が演じてもよかったのではなんてことも考えましたが、それはないものねだりが過ぎるというものでしょう。
……つい長く書きすぎてしまいました。比較して見ると、単体で見ていては気づかなかった発見がいろいろあって楽しかったです。今年は脱獄映画の金字塔『パピヨン』やスティーブン・キング原作の『ペット・セメタリー』のリメイクが公開されるそうなので、別の作品でもチャレンジしてみたいですね。