映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』– スタイリスト谷崎彩の超私的ファッション愛 #06

映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』– スタイリスト谷崎彩の超私的ファッション愛 #06

スタイリスト谷崎彩さんが愛するファッションの話。


 

映画「ヨーゼフ・ボイスは挑発する」

ほんとタイトルのごとく、この映画には挑発されました(3月2日より全国順次公開)。ん、というよりは触発されたというのが正しいか。観終わったときに出てきた感想と言えば、うわっ!ボイスかっこいい!オシャレ!でした。あっ、映像もめちゃくちゃスタイリッシュで、ボッーと鑑賞しているだけでも充分心に訴えてくるところがありますよ。

ヨーゼフ・ボイス(1921ー1986)はドイツ生まれで、1960年代から80年代初めまで彫刻、インスタレーション、パフォーマンスなどさまざまなジャンルで活躍したアーティスト。当時中学生だったワタシ、「美味しいウイスキーを知っています」というCMが記憶に残っています。後に続く芸術家たちに多くの影響を与えた重要(ココ大事!)人物だと思います。


アンドレス・ファイエル監督はお芝居の脚本のため、金融危機についてリサーチをしていたところ、たまたまベルリンのハンブルガー・バーンホフ現代美術館で上映されていた映像でボイスが「お金は世の中を駆け巡りはするものの、生産活動からはかけ離れている」と語っているのを見て、まるで数十年後のリーマンショックを予測していたようなその言動に感動したことが作品を作るキッカケとなったと語っています。そして試行錯誤の末、3年以上の歳月をかけてまだ世に出たことのない膨大な量の音声と映像をメインに、このドキュメンタリーを完成させました。

 

ボイスのファッション哲学

さてそのボイスのファッションといえば、フェルトの中折れ帽(イギリスの老舗帽子店、ジェームスロックにオーダーしていたとも?)に、白いシャツ(いつも清潔に見えるように気を使っていたらしい)にフィッシングベストとジーンズ(この映像で着用しているのはシルエットから、『リーバイス501の66後期モデル』とある筋からの情報をキャッチ)。

基本ワークウェア中心のコーディネイトなのに、彼が着るとやけにかっこいい。やっぱ、雰囲気というか着る人からにじみ出てくる空気って大事だわ~。ファッション好きとしては、ハットをブリムの長いボルサリーノに替えたらどうだろうとか、ベストを大きめのパタゴニアのフリースにしては、いやいっそバレンシアガのダウンなんかもいいかも、ハットに合わせて靴もクラシカルにチャーチのレースアップブーツがいいかと提案(空想)が止まらない(笑)。今もなおボイスをコレクションのイメージソースにするデザイナーが後を絶たないのも頷けます。

今までチャンスに恵まれず作品集でしかボイスの作品に触れることができなかったため、その背景というか経緯がうまく理解できていなかったのですが、ボイス自身が空港からフェルトに包まれて救急車で運ばれて展覧会場へ運ばれるところや、コヨーテと1週間過ごす「私はアメリカが好きアメリカも私が好き」の映像もあり、その他、ボイスの子供たちが父のスタイルの真似をして遊んでいるところや、冬に毛皮をはおりさっそうと歩く姿はとてもアイコニックで、アート界の伝説が実際に動く映像にはかなり興奮しました。そしてついにというかやっと、この作品を観てワタシ内ヨーゼフ・ボイスが点と線でつながった感じ。

 

ボイスに惹きつけられる理由

やっぱり彼の作品は本人もその場にいて成立するものなんだなと。この人の佇まい、身のこなし全てがカッコいい!すごいそして圧倒的なエネルギー。おそらくボイスの理論を完全に理解していた人は少数だったと思うのですが、この人を前にすると、彼の持つ雰囲気、エネルギーに理屈抜きで引き込まれてしまい、ファンになってしまったのではないかしら?

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トリックスターともいわれた彼の行動は確信的。映像の中でも「撹乱は必要だ、人目を引くためにね」とお茶目にコメントしています。そして皮肉なことに彼の思考が先を行き過ぎてしまっていたため、彼が警鐘をならしていた問題が浮き彫りになってしまった現代を生きる私たちの方が、逆にすんなりとボイスのすごさを受け入れられるのだとも思います。とはいえ、そのミステリアスなボイスのキャラクター故に、作品に残されているキーワードを理解するのはなかなか難解ではあります。

その手がかりとして、1984年に来日した際に催された東京藝術大学での学生たちとの対話でボイス自身が自らの作品哲学を噛み砕いて話してくれた言葉がありました。

 

 KUNST 芸術

昔、芸術という言葉はもっと技術とかの概念に近いもので、日常的に使えるということを本能的に予感できる言葉でした。その意味で、芸術大学とか画廊とかケツの穴みたいなところで営まれているものだけが芸術ではないのです。

すべての人間は芸術家である。思考して初めて未来の芸術というものが始まります。私のイメージや思想の中で考えられたものが具体的な姿で表されています。こうした姿でのみ、オブジェや具体的な作品が意味を持つのです。それは画家のようになったり、モーツァルトみたいになったりすることを意味するのではありません。どんな人間も社会のために働けるという意味です。歯医者、看護師、ゴミを出す人々、母親たち、会社の課長、部長、工場長、マネージャーそうした誰もが自分自信の考えによって本当の意味で自らの想像力を共同体に提供することができるのです。それが芸術というものの持っている本来の欲求に叶うものだと私は考えます。

 


『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』

彼は、「社会を彫刻」した。 戦後ドイツで革命を叫び、世界中を攪乱し「芸術」を変えた伝説のアーティスト、ヨーゼフ・ボイス。 バンクシーなど現代のアーティストにも脈々と受け継がれるボイスの芸術と、その知られざる”傷”を見つめる。

2019年3月2日(土) アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、横浜シネマリンほか全国順次公開

All photo: 『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』より © 2017 zero one film, Terz Film

谷崎彩
スタイリスト。1998年から代官山の隅っこで小さな輸入洋品店を開業。2000年〜2004年くらいまでフランスのインディペンデントマガジン「Purple fashion 」のスタイリスト兼ファッションエディターを務める。

 

Edit: Karin Ohira

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