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「ベルリンはアーティストにとってパーフェクトな街」Andreas Greiner あっこのベルリン・オルタナ通信09

「ベルリンはアーティストにとってパーフェクトな街」Andreas Greiner あっこのベルリン・オルタナ通信09

ベルリンはアーティストの街だ。ほとんどの人がアーティストなんじゃないかというくらい犬も歩けばアーティストに当たる。毎日たくさんの展覧会、パーティ、イベントがあって一体どれに行けばいいのか、全部リサーチしていたら日が暮れてしまう。だから自分の好きなアーティスト、ミュージシャン、パーティ、バー、スペース、それにもちろん友達、を見つけたらそこから自力で糸をたどっていかないと膨大な情報の中で何も好きなものを見つけられないままだ。あてずっぽうに展覧会やパーティに行っていたらハズレの嵐である。

これもひとえに自分でアーティストだと言ってしまえば誰も否定できない肩書き「アーティスト」だらけの街ゆえのこと。みんながみんな自分や何かを表現していて、洗練される前のぐちゃぐちゃの状態で全てが平等にFBのイベント欄に並んでいる。(余談ですが、ベルリンではインスタよりもFB!アンチ・スマフォ、アップル製品をやめることもトレンディという感じで、日本や他の大都市とはだいぶ環境が違う気がします。)

2014年だったか、日本のアーティスト・コレクティブ「オル太」 がベルリンにレジデンシーで滞在していた。もともとオル太は、2011年に当時日本で美術評論をしていた工藤キキちゃん(現在はNYでアーティスト、ミュージシャン、ライター、そしてCHI-SO NYC  とマルチに活動中!)のレコメンで、岡本太郎賞をとった「つちくれの祠」というパフォーマンスを見に行ったのをきっかけに笑いと共にファンになり、その後も展示があれば見にいき、私の誕生日にはキキちゃんのドッキリの仕掛けによって一生忘れられないパフォーマンスをしてくれたという間柄で、滞在中にちょこちょこ遊ばせてもらっていた。そのオル太を介して知り合ったのがベルリン在住のアーティスト、Andreas Greiner ー という、私にとってはかなりぶっとい安心の糸の導きによりアンドレアスを知りました。

今回のオルタナ通信では、その信頼の糸をギンザ読者にも繋げちゃおうと、アンドレアスがシェアしているスタジオを見学させてもらいながら、インタビューしてきました。

DSCF0641アンドレアスのシェア・スタジオは元ビール工場だった古い煉瓦造りのビルの中にあった。街の中心から20分くらい。すぐ隣のブロックには巨大DIYショップと木の素材を売っている店があって、物を作るのには完璧なロケーション。

DSCF0642ビルの前には池とビニールハウス。魚の水をハーブを育てるビニールハウスに循環させてその水をまた魚に戻すシステムになっているそう。いいね👍

ーアートを志したのはいつですか?

14歳の時。最初はグラフィティを描いてたんだ。

ーアートを勉強したことはありますか?

大学で最初は彫刻/スカルプチュアを学んだ。トラディショナルなブロンズの彫刻とかも。
そうしたら「なんで人間の体はこうゆう形をしているんだろう?」という疑問が湧いてきて、ブダペストとドレスデンで薬学を勉強してその一環で解剖とかも勉強したんだ。

ーえ??ブロンズのスカルプチュアから解剖学?面白すぎ!その答えは見つかった?そこで何を身につけたと思いますか?

ある意味どうしてこうゆう形なのかは答えを見つけたかも、うーん、見つけてないとも言えるかな(笑)。他にも色々な疑問とたくさんの答えを見つけた。同じことを説明するのにも色々違う方法があることや西洋と東洋のアプローチの違いとか。タイマッサージも勉強したし。それから、効率的になることも学んだかな。

ーその後またアートに戻ってくるきっかけは?

色々な理由があるけど、まずは医者になりたくなかった。向いてないって言ったほうがいいかな。人に針を刺したりするのも嫌だった(笑)。他にも色々理由はあるんだけど、それでその後Olafur Eliasson のクラスで5年学んだんだ。
実はこのスタジオをシェアしてる6組のアーティストは全員Olafurの生徒なんだよ。

キッチン

共有スペースここは共有のスペース。広いスペースが必要な作業はここで。右の黒い布で覆われた小屋にはアンドレアスの夜光虫が眠っている。

ー全員?Olafur のクラスが良い環境で、いい仲間ができたってことだよね。すごいなーOlafur Eliasson。その5年間では何を学んだと感じますか?

まずは自己反省すること。それからアートの役割について。あとはシェアしたりコラボレートすること。もっとオープンに考えてプレイフルになること。色々学んだよ。

ー他の人と働くことでエゴを抑えることとか?

例えばここのスタジオのアーティストは全員めちゃくちゃエゴイスティックだと思うけど(笑)、それでも一緒にシェアしてやってる(笑)。

DSCF0651Julian Charrière(左側)とJulius von Bismarck (右奥)のスペースにはたくさんのアシスタントが作業している。窓が大きくて気持ちがいい空間。

旗の人カイトや船の帆、旗などの作品を作る Raul Walch のスペース。

ーこのシェア・スタジオはどうやって始まったの?

確か2011年だと思うけど、この地域のプロジェクトでこのビルのオープンコールがあって見に来たんだ。そしたらここにいた人がスタジオ・スペースがあるよって言うからその時スタジオを探していたJuliusに話したんだ。それで最初にJuliusが入って。人は入れ替わってるけど続いてる。今はJulius von BismarckJulian CharrièreFelix KiesslingMarkus HoffmannRaul Walch、そして僕の6人。

ー他の都市に住んだことはある?

ドイツのAACHENというところの出身で、サンフランシスコに少し住んで、イタリアのフィレンツェに2年、ハンガリーのブダペストに2年、ドレスデンに2年、ベルリンはもう11年住んでる。

ーどうしてベルリンを選んだんですか?

ベルリンが僕を選んだんだ。他の街の美術大学、美術アカデミーにも色々アプライしたけどベルリンが僕をピックアップしたって感じ。

ー他の都市と比べてベルリンをどう思いますか?

アーティストにとってはほとんどパーフェクト。いろんな国の人が集まってて、ヤング、フレッシュ、オープンマインド。他の都市で同じことができると思えないよ。NY、パリ、ロンドンはどこも高いしね。文句を言うとしたら天気かな。冬と。うーん、でもそれもそんなに大したことではないよね。

IMG_9675Andreasのスペース。アシスタントのRaphaelとマネージメントもするJuliaと。Raphaelとはカビを増殖させて模様を作った布から洋服を作るプロジェクトも進行中。(模様ができたらちゃんと殺菌するから大丈夫なんだそう。)

DSCF0650アンドレアスの向かいのスペースではEkaterina Burlyga  が作業中。スタジオのアーティストのアシスタントやテクニシャン的な仕事をしながら一時的にスペースを借りて自分の作品も作っているアーティストの一人。ということは6人以外にもたくさんの人がスペースをシェアしていることになる。

GASAG Kunstpreis 2016を受賞したBerlinische Garelieの展示を見ました。契約書が貼ってあって、それは ー  生きたチキンを養鶏所から買って、その鶏をもっと良い環境、十分なスペースでまともな餌をあげて健康的に育ててもらうように契約した契約書で ー だけどその鶏はすぐ死んじゃったんですよね?

そう。チキンの名前はHeinrichって言うんだ。

ー私はこの作品にすごいモヤモヤした今を感じました。1羽の鶏を救出するというリアルな行動に出たにもかかわらず、すぐ死んじゃった。結局救えなかったじゃん。でもそれがリアルなんだっていう。しかも全部人間サイドの勝手な考えで、この作品にドラマを見ていることも人間のエゴだという気がしてきて.…モヤモヤ…

あれは何かチキンに良いことをしたいっていうすごくナイーブなアイデアから始まったプロジェクトなんだ。最初ハインリッヒは幸せな人生を手に入れるんじゃないかと思ってた。鶏小屋で鶏たちは錠剤を食べて育てられてるせいで最初は普通の穀物を消化することもできなかったんだけど、だんだん慣れてきて、体もスマートになって、走り回って、いい感じだなと思ってた。だけど5ヶ月くらいで死んじゃった。

Heinrich-Totus-Corpus-Andreas-Greiner-Theo-Bitzer_2015
HEINRICH 

それで3回検死して色々調べたけど、病気は見つからなかった。
ハインリッヒは食肉用に人間が掛け合わせて作った、いわゆる遺伝子組み換えのインダストリアルチキンなんだ。だから異常に足が大きくて、体が大きくて、尾はほとんどない。早く大きくなるようにできてて、その後は食べられるだけだから、寿命も30から40日(普通に育てられたら8年くらいは生きるそう)っていうふうに作られてる。子供を作るようにもできてなくて、幸運にも誰かメスと知り合って交尾して卵が生まれるようなレアなケースがあったとしても、そのひよこは遺伝子の問題で普通のひよこにはならないっていう。ある意味コピー・プロテクションというか。

ー遺伝子組み換えの植物と同じですね。種ができないように作られてるっていう…

そう、たった1ヶ月生きて1ジェネレーションだけ。長生きしないように改造されてるから心臓がすごく小さいんだよね、そうゆうことが理由で死んだってことがわかった。
そもそもハインリッヒは5ユーロ(650円)で買ったチキンなんだけど、5ヶ月の間に風邪ひいたりもして、1000ユーロ(13万円)くらいかかったよ。

ー1000ユーロ使っても救えなかった1羽5ユーロの大量生産の鶏…

生と死のサイクル、メタボリズム。今出来上がってるサイクルからエスケープするのはすごく難しいっていう。

ー展示会場にはハインリッヒの契約書の前に3Dプリンターで作られた巨大な鶏の骨があったんですけど、それはハインリッヒのメモリアルとかそうゆうことですか?

あれはまたちがう鶏。ポートレートのシリーズとか色々チキンのプロジェクトをやってるんだけど、あの3Dプリント作品は現代のダイナソーという意味で作ったんだ。
そうやってたくさんの遺伝子組み換えが行われてる現代において、チキンもどんどん違う型になっていくから、種の絶滅とか、考古学とか、色々な要素が含まれてるんだけど。半分自然で半分人工のチキン、人間の痕跡がある自然。

Monument-For-The-308-Installation-View-Berlinische-Galerie-Andreas-Greiner-Theo-Bitzer_2016
3Dプリントされた巨大チキンの骨。

ーこれからさらに組み替えられて絶滅してしまうであろう今の型を残したってことですかね。超巨大な骨を3Dプリントで作った感じも2016年の今って感じがしました。あんなでっかいものも作れるんだって。
同時にハイテクの顕微鏡カメラで撮影された藻の写真やピアノの音で光る夜光虫のライブパフォーマンスもあって、特に藻の写真はメカのような精密な美しさと静かな佇まいに見惚れてしまってその場を離れられませんでした。

Heads-High-Lisa-electron-microscope-Andreas-Greiner
藻の写真のシリーズ8 HEADS HIGH AND PHOTOSCULPTURES自然へのリスペクトを感じた作品。すごくキレイ💘

ーそうやっていつも生き物を題材にしているのには何か理由がありますか?

同じ言葉を話さないから興味があるのかもしれない。自然と人間の関係に興味があるんだ。
子供の頃から、例えば、蜘蛛を捕まえて燃やしたり足をひっこ抜く人がいれば外に逃がす人がいたりとか、そうゆう矛盾に混乱してた。自分の中にも矛盾があると思うし。それに単純に自然に美を感じる。

ーホタルイカの研究をしたり、レジデンシーだったり、日本にも馴染みがあると聞いたんだけど、どんな印象ですか?

10回くらいは行ったかも。住むのはちょっと難しそうだなと思うけど、すごくユニークでスペシャルな社会だと思う。僕の西洋のバックグラウンドと全く違うから興味が湧くし、良い部分からも悪い部分からも勉強になる。それからすごい狭いところにたくさんの人が住んでるのを見ると未来的だなと思ったり。他のアジアの国よりも最初に行った時の印象は特別だった、本当に火星に来たみたいな感覚だった。
食べ物も友達も人々も単純に大好き。I LOVE OLTA!
ベルリンでも3人の日本人のテクニシャン/アーティストと一緒に仕事をしているんだけど、日本人は最高!ベストを尽くしてくれる。早いし、コストにも敏感だし、時間を守るし、レス・プロブレム、レス・ディスカッション!(笑)本当にちょっと焦るくらいだよ。

ー(笑)日本人の仕事の仕方って本当にすごいですよね。オル太とはどうやって知り合ったんですか?

東京ワンダーサイトのレジデンシーで日本に滞在していた時、オル太もたまたまレジデントしていて、いつもオル太の部屋にたくさん人が出入りしていて面白そうだなと思って遊びに行ったのがきっかけかな。初めて彼らの作品を見たときは、完全には理解できなかったと思うけど、例えば石とか昔の神様とかいろんな要素がぐちゃぐちゃに混ざっててクレイジーでびっくりした!オル太は本当に最高!

僕もDAS NUMENというアーティスト・コレクティブをやっているから、そうゆう意味でもオル太には興味があるんだ。集団で一つのアイデンティティを作るというプラクティス。僕たちとオル太ではやり方も違うし、だから余計に興味がある。

ーDAS NUMENはどんなコレクティブなんですか?

Julian CharrièreMarkus HoffmannFelix Kiesslingと僕の4人で活動してる。全員このスタジオのメンバー。
人間に知覚できないものってあるでしょ?あるけど見えなかったり、聞こえないし、匂わないし、触れないし、味もしないもの…だから人の感覚というのは絶対に信じられるものってわけではないと思うんだ。そんな人間が知覚できないものをアートにトランスフォームするようなことをしてる。

ーなんか面白そう!チェックします!スタジオをシェアするにしても、コレクティブとして活動するにしても、日本ではまだそれほど浸透していない方法なのかなと思うんです。

スタジオ・シェアは良いことしかないよ!同じ機械を同じタイミングで使いたい人がいて待たなきゃいけないとかはあるけど、それって普通のことだしね。うん、シェアできるんだから最高!

ーコレクティブで上下のない関係で一緒に何か作品を作るっていうのは、自分の好きなようにコントロールできないし、計画も立てづらくてその場で対処していくような即興的な感じもあるのかなって思うんですが、やっていてどうですか?

そうだね。不思議となんとなく物事が転がっていく。
コレクティブをやろう!って始めたわけじゃなくて、最初はまだみんな学生で同じスペースで作業していて、それで展示をやろうってなってその展示のタイトルがDAS NUMENだったんだ。その時お互いインスパイアされるものがあって続いてる。一人でやるのとはまた違ったことや、もっと大きな規模のこともできるって気がついたんだ。

ー最後に、Olafurのクラスでアートの役割について学んだって言ってたけど、アートの役割ってなんだと思いますか?

意識を作ること。それから社会を映し出すこと。直接的なやり方じゃなくてもね。

 

スタジオ・シェアやコレクティブという環境で、自分のエゴと他人のエゴの間で妥協点を見つけながら自分のやりたいことを目指していく ー ちょっと矛盾したチャレンジな気がするけど、社会のミクロ・バージョンの実践って感じですごくベルリンぽいやり方だなと思う。
疑問を持ったら彫刻から方向転換して薬学を勉強したり、作品でも何か完結したものというより、答えを探すアクションの過程をナウな技術とともに形にする、アンドレアスのエクスペリメンタルなやり方にも、さすが「ベルリンに選ばれたアーティスト!」という印象を受けました。

このインタビューもオファーしてから結局実現までに1年かかってしまったくらい、超多忙のアンドレアス!

 

3月20日からBärenzwingerという、元動物園の熊の檻(!)で藻や夜光虫を使ったサイトスペシフィックな展示「Habitat」を開催。4月20日からは南ドイツのHEILBRONNという街のKUNSTVEREIN HEILBRONNにて、4月27日からはギャラリーウィークエンドの一環で自身の所属ギャラリーDittrich-Schlechtriemにて個展「Hybrid Matter」と、この春3つの展示の予定です。

 

DANKE!
Andreas!!
Sayaka san!!

あっこ(渡辺彰子) akko

ベルリン在住6年目、普段は料理と、時々裁縫。レシピのビデオ作りました→eyescream.jp/culture/5904

5月4日から3日間ベルリンではMISS READブックフェアhttp://missread.comあります。今年は日本にフィーチャーした内容になるとのこと。

私もROKU Berlin http://roku-berlin.tumblr.comしてfood zineで参加します。

 

Text: Akiko Watanabe

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