SEARCH GINZA ID

『ベルばら』企画リブート!山戸結希×あっこゴリラ×湯山玲子が語る新時代のオスカル像

『ベルばら』企画リブート!山戸結希×あっこゴリラ×湯山玲子が語る新時代のオスカル像

以前連載していた、湯山玲子さんと名作『ベルサイユのばら』を再読する企画が今回特別復活。ヒーロー、ヒロインがなかなかいないこの時代ですが、心にベルばら、そしてオスカルがいれば大丈夫。「ベルばら手帖」で栄養補給して、いざ、前進!

湯山 映画業界とヒップホップ業界、〝軍隊〟的な空気が色濃い男社会でオスカルのごとく活躍するお2人と、#MeToo以後の今、ベルばらについて語ってみたいと思います。まず、ベルばらを読んで、どうでした?

あっこ めっちゃ面白かった!オスカルが、何が正義かって葛藤しながら自己改革していくさまにシンパシーを感じました。

山戸 私は女性がこれまでどう自己実現してきたのか知りたくて、池田理代子先生や山岸凉子先生の作品を数年前から読むようになったんですけれど。私が10代の頃に影響を受けたよしながふみ先生の作品に、ベルばらの血も受け継がれていたことがうれしかった。

湯山 私は中1くらいのとき、リアルタイムで読んでいるんですよ。しかし、当時の日本は男尊女卑モード。女が職業を持ち自立して生きる道は歓迎されない現実がある中で、オスカルはよき軍人、仕事人になるために、男装して自分の生き方をまっとうする。ただ、今読み直すと、オスカルがアンドレとの子を育てながら軍人としてバリバリやっていくという姿は描かれていない。それを描くのは当時リアルではなかった、と作者の池田理代子さんも言ってます。

湯山玲子

 

あっこ 私なら普通に子ども抱えてラップしたい。

湯山 吉田沙保里さんが引退した時の「女性としての幸せつかみたい」という発言がマスコミでやたら強調されてたけれど、なんだかなぁ、と思わない?

山戸 女性のスポーツ選手はことあるごとに、出産、結婚はどうするんですかって聞かれ続けてるから、そういうメンタルが社会的に求められ、何らかの先回りをせざるを得ない状況に置かれますね。

湯山 もしくは彼女の世間に向けたサービス精神ね。「本心から言ってないと思いますよ」ってテレビ番組のコメントでちょっと水を差しましたけど。ところで、一番イラッとくるキャラは?

あっこ ウザキャラのジャンヌ。でもたくましいよね。私もラップ始めたての頃は〝どんな手段を使ってでもサバイブしてやる〟ってけっこうジャンヌメンタルだった。

ベルサイユのばら ジャンヌ

山戸 私はポリニャック伯夫人ですね。女性同士で協力し合っていく時に、こういう裏切りをする人は、より深く周りを傷つける。

ベルサイユのばら ポリニャック伯夫人

湯山 私はロザリーが腹立つんですよ。無意識に〝自分を幸せにしてくれる人は誰〟〝私が尽くして満足する相手は誰〟って依存してる風なんですよね。ある種、滅私奉公の人。日本の社会は、女は男や子に、男は会社にと、滅私奉公の美学が濃厚ですから。

ベルサイユのばら ロザリー

山戸 強豪校の野球部マネージャーがおにぎりを作り続けて、「おにぎり女子」だとアイドル化され、それが美談となるニュースも流行りましたね。

湯山 女子が気をつけなければダメなのが、この滅私奉公尽くすモードと自虐。ヒップホップ業界はどうですか?

あっこ 私はラップを始めて最初にMCバトルに出た時、男尊女卑がひどくてびっくりしましたね。下ネタとルッキズム。初めはブスって言われたら、「ブスじゃない、中の上だよ」って言い返したりしてたけど、それは男のスタイルに迎合したやり方だった。ここで一発返してどうというより根深いものがあって。だから楽曲で表現するほうにシフトチェンジしましたね。

湯山 そういえば、安藤サクラがパイを投げつけられる西武・そごうの広告が炎上しましたよね。いやー、今、ハラスメントの時代で大きく意識を変えなければならないのは、パイを投げるアチラ側だろう、と。「時代の中心に、男も女もない。」っていうまとめのコピー。あれを女性が言っちゃあ、アカンのですよ。だって、それは女に酷いパイを投げ続ける社会にこれまで通り「我慢」しろという話だから。怒ったなら、最後まで拳を下ろさず殴りかかってほしかった。

あっこ ライオットガールは90年代徹底的にやってつぶされちゃったんですよね。男にビール瓶投げつけて、そこだけ変に報道されて。

湯山 でもそのマインドを引き継いでいる女性たちは今となっては多いよね。社会活動ってダメになっても別の方向に伝承していくことがある。 あっこ たしかに、フランス革命もロベスピエールからナポレオンへ引き継がれてて、革命は一発で終わらないんだなと。

湯山 その自主独立精神は、実はガーリーカルチャーの中にも潜んでいて、今アナタたちにもあるわけです。では、映画界の状況はどうでしょう。

山戸 女性の映画監督の割合は10人に1人いるかいないか、ですね。結果として、才能のある女性が目立つから多く見える騙し絵でもある。「女性も十分進出してる」という指摘に絶句することもあります。

あっこ あるー!女同士で近い存在でも、世界の捉え方がこんなに違うんだって。「ふつうのこと言ってるだけだよね」って言われたり。ディスりは慣れてるけど、本当に気づいていないパターンが一番ヤバい。

山戸 ただ、ベルばらでアントワネットが息子への性的暴行を疑われた時に法廷のすべての女性に訴える、というシーンもありましたよね。

ベルサイユのばら アントワネット

あっこ それで聴衆の女性たちは目が覚めた。

山戸 ベルばらは女性の弱いところと強いところ、悪と善、絶望と希望の両方を写しています。40年以上前の漫画なのに先進的で、それは希望でもあり、何ら変わっていないことへの絶望でもあるんですけど。

湯山 ベルばらが画期的だったことのひとつに、少女漫画で初めてベッドシーンを描いたというのがあって。ここで重要なのは、オスカルは〝誘う女〟だということ。これはいまだに、みなさんあんまりできないの。

ベルサイユのばら アンドレとオスカル

あっこ 私はできない。でも周りの友達は結構できてて、こないだ男友達が「○○ちゃんに喰われちゃった」って言ってて、相手の女、かっけーなって。

湯山 ベルばらで描かれているのは、心が最初に好きになって、結果体も結ばれるっていうロマンチックラブの形で、体だけっていうのはさすがにこの時代では描けなかっただろうし、池田さん自身がそういうタイプではなかったと思う。

山戸 セックス=快楽でもあるけれど、女性にとっては、実感としては痛みの方が強くて、〝この人なら痛みを感じてもいい〟という思想は、〝尽くす〟という思想につながるかもしれません。しかもベルばらは少女漫画で、少女期のセックスって快楽よりも痛みや危険性が先行しますよね。

湯山 あっ、おばさん、その部分忘れてた(笑)。あと、このベッドシーンでもうひとつ重要なのは、アンドレが尊敬する相手であるオスカルに〝勃つ〟ということ。日本の男って尊敬する相手に勃たないんですよ。それは日本の性教育のリソースであるAVの物語が、女性に対しての侮辱や蔑み、いわば弱く、劣位の女を相手にして欲情させるヤツばかりだから。女はバカな方がカワイイ、の真相はソレですよ。この構造が自覚されるから、女は自分の実力を去勢していく。出世拒否の女性のメンタルにはこういったことも関係している。

 

山戸 〝一盗二卑三妾四妓五妻〟という古い言葉もありますね。不均衡な関係による不道徳、それが性愛のきっかけとなり、保守的にはその先に結婚があるとなれば、劣位のポジショニングのまま、契約を結ぶことになってしまう。日本で尊敬し合う男女の性愛が成立し得たら、もっと違うパートナーシップがあると思います。

湯山 男の強さって徒党を組むことなんだけど、女の人ってどうも一匹狼、サムライ的でしょ。しかしこれだけ仕事の現場に女性が入ってくると、年齢を超えて女子会的でも徒党でもない尊敬し合う女性同士の連帯が生まれてきているのを肌で感じますよ。

あっこ 超わかる!椿っていう、私とはスタイルが違うフェミニストの女性ラッパーがいて、初めて会ったときはそれこそ侍同士。話をしなければ目も合わせない。それはお互いそうやって生きてきたから。でもその後わかり合って、今はソウルメイト。

山戸 リスペクトし合うことが最重要テーマ。女性のクリエイター同士は、尖って嫌い合うみたいな空気に取り込まれたくなくて。尊敬し尽くしたいと願って、だからこそ『21世紀の女の子』の企画も成立しましたね。

あっこ この状況で背筋伸ばして活動してるだけでリスペクトできるし、そういう人たちとは連帯していきたいね。

あっこゴリラと湯山玲子と山戸結希

湯山玲子 ゆやま・れいこ

 著述家、プロデューサー。日本大学藝術学部文芸学科非常勤講師。著書に『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(角川文庫)、『文化系女子という生き方 「ポスト恋愛時代宣言」!』(大和書房)など。テレビ番組『バラいろダンディ』(TOKYO MX)などに出演。

山戸結希 やまと・ゆうき

1989年生まれ。映画監督。2016年、小松菜奈・菅田将暉W主演の『溺れるナイフ』を監督。今年2月には企画・プロデュースした新鋭監督15人によるオムニバス映画『21世紀の女の子』が公開された。6月には東映配給作品『ホットギミック』の全国ロードショーを控えている。

あっこゴリラ

1988年生まれ。ラッパー。ドラマーから転身して2年後の2017年に日本初の女性のみのMCバトル「CINDERELLA MCBATTLE」で優勝、初代No.1フィメールラッパーとなる。18年4月にシングル「余裕」でメジャー再デビュー。12月にはアルバム『GRRRLISM』をリリース。

漫画: Riyoko Ikeda Photo: Satomi Tomita Styling: Naho Nakako Edit: Sayuri Kobayashi

GINZA2019年4月号掲載

#Share it!

#Share it!

FOLLOW US

GINZA公式アカウント

PICK UP

MAGAZINE

2023年4月号
2023年3月10日発売

GINZA2023年4月号

No.310 / 2023年3月10日発売 / 特別定価880円

This Issue:
流行と人気

2023年春のムードは
どんなもの?

...続きを読む

BUY NOW

今すぐネットで購入

MAGAZINE HOUSE amazon

1年間定期購読
(17% OFF)