どこにでもあるもので、どこにもないものを作る。ベルリンを拠点とするイネス・カーグと、パリを拠点とするデジレー・ハイスによるデザイン・ユニット〈BLESS〉の手がける洋服や家具、アクセサリーなどのプロダクトは、洗練されていながらも実験的でユーモアに満ちており、見ていて愉快な気持ちになるものばかり。じつは先日、その制作現場を体験してきました!
aggiiiiiiiが〈BLESS〉のユニークな舞台美術制作を体験してきたよ!
〈BLESS〉の作品のおもしろさというのは、既存の価値観に大胆なひねりをくわえることで生じる違和感だったり意外性によりもたらされるところが大きい。つまり、その元となる価値観がベーシックであればあるほど、多くの人に共有されていればいるほど、違和感が強く伝わり、おもしろさがじわじわと効力を増してゆく。だからこそ洋服以外だとベッドシーツやヘアブラシ、壁紙や家具など、日常生活に直結したプロダクトが多いのではないか。というようなことを考えていたら、昔『風とロック』の箭内道彦さんが「相手の力で遠くに行く」ことを「クリエイティブ合気道」と呼んでいたことを思い出しました。もしかすると、それと同じことが〈BLESS〉にも言えるのでは? デザイナーのふたりがじっさいに合気道を習っていると知って、その偶然の一致に驚きました…!
そんな〈BLESS〉がこの秋、新作コレクション〈Nº67 Situation Designer〉をひきつれて、東京にやってきています!なんとベルリン在住の気鋭のパフォーマンス・アーティスト、ハラサオリさんによるダンス公演『no room』の構成と演出、衣装、舞台装置を手がけるそう。しかも会場は、建築家の谷口吉郎とイサム・ノグチが共同で制作した慶應義塾大学三田キャンパスの旧ノグチ・ルーム。なにそれ、おもしろそう!!これまでもいわゆるコレクション方式は取らず、作品を身につけた友人たちによるパフォーマンスなどで新作を発表してきた彼女たち。がぜん、期待は高まります。さらに美術制作のサポートスタッフを募集しているという噂を聞きつけ、迷わず応募することに。だってBLESSの制作現場をのぞける機会なんて、一生に一度、あるかないかでしょう?!?!というわけで具体的に何をするのかは当日まで知らされることないまま、ドキドキしながら雨の中、都内某所の作業場に向かいました。
今回の公演『no room』の演出については、こんなテキストが公開されています。
「BLESSはパフォーマンスアーティストのハラサオリとのコラボレーションを通して、これまで作品の中で取り組んできたことをさらに実験的に押し進めている。近年の作品でBLESS は、自ら状況を形づくり定義するクリエーションを行ってきた。それは、日常生活や一時的に設けられた空間で、物事を新たな視点で見つめ直し、提示された主題を追体験する行為である。それによって、気づきが生まれ、凝り固まった個人の考え方が変化するのである。プロダクトをつくるように状況を形づくることは、雑音の多い今日の世界で、目に見えない存在にアプローチしたいという欲求がモチベーションになっている」。
「この作品でBLESSが行っていることは、参加型のパフォーマンスの提供ではない 。視界の中に存在する全ての要素、つまりオブジェ、プロダクト、世界に存在する要素の関係性から状況を積極的につくる試みだ。それは、生物 、無生物も含めた、目に見えないが確かに存在する空間、その間にあるもの、これから生まれてくる何か、遂には全てのものの関わりによって成り立っている」。
うむ。とてつもなく大きな宇宙の入口に立っているような気分。わたしにそれを理解することはできるだろうか。きっと、してみたいと思う。
現場に到着すると、机の上に用意されていたのは、大量の延長コードと革紐でした。
はっ、これは!!!
〈N°26 Cable Jewellery〉 だ〜〜〜!!
〈BLESS〉のコレクションは、1996年に雑誌『i-D』の広告ページにいきなり登場した〈N°00 Furwigs 〉以降(ちなみに、それを見て電話してきたのがマルジェラと、今はなきパリのセレクトショップ「コレット」だったという最強の伝説があります)、すべてに通し番号が振られています。2005年に制作された、その26番目にあたる〈Cable Jewellery〉は、電源ケーブル、延長コード、携帯の充電コードなど机や床の上に延び、たまにルンバに巻き込まれたりして厄介&目に入ってけして美しいものではないそれらに、紐を巻いたり穴の空いた木の球体や石のオブジェを通すなどすることでアート作品に変身させたもの。もちろん実用性はそのまま。かれこれ10年以上も前に発表されたこのシリーズは、今も新作が生み出されるBLESSの定番プロダクトと言えます。早速出会えた名作クラシックに大興奮のわたし。今日はこれを作るってこと? うれしすぎる!
今回の公演には、マイク用、スピーカー用、延長コードなど、かなりの量のケーブルが必要となるよう。教えてくださるのは、杉原さんという男性です。この杉原さんは、少し前までベルリンのショップ、BLESS HOME BERLINにて店長をされていた方。住居も兼ねたそのショップで暮らしていた(!)彼は現在もベルリン在住で、今は土曜日だけお店に出ているそう。今回の公演のために一時帰国中とのことです。本職が美容師さんであることと、もともとはBLESSのスタジオでインターンをしていたこともあるそうで、さすがに手先が器用! 慣れた手つきでしゅるしゅるしゅるとケーブルに紐を編んで見せてくれます。
まずはわたしも単色の紐からトライ。けして不器用なほうではないと思っていたものの、いざ初めてみると、む、むずかしい…! シンプルな作業ではあるのだけど、物分かりの悪さが足をひっぱってコツをつかむまでにひと苦労。でも慣れてくるとハマります。単純作業、好き……。
「けっこう時間かかりますよー。笑」とはあらかじめ言われていたのですが、ここまでですでに3時間ほどが経過(笑)。終わるのか、これ終わるのか。もう一体、何個結び目つくったかわかんないな。でもまだ途中だけど、目の前に現れてきているものは確実に〈BLESS〉っぽいものだ。うれしい! あがる! 休憩をはさんで、とにかく編む! 編む! 編む!
違いがわかりますでしょうか。約2/3を編み終え、ここまでで5時間くらいか…。途中で紐の長さが足りなくなったら、杉原さんが魔法のように継ぎ目をカモフラージュして新しい紐を足してくれます。自由に紐をあやつる魔術師、かっこいい…。しかし、まじで指が痛い。とくに右手の人差し指の腹が痛い。左手も凝っている。途中で限界が押し寄せる。もうだめだ。しばしうつ伏せになり休憩。その後、ムクッと復活し、ふたたび編む! 編む! 編む!
見てくださいー!!! できた!!! これ、作ったよ!!!奥がわたしので、手前が杉原さんの作った白黒2色バージョン(美しい~! ちなみにこれは新色だそう)です。ささっと無造作に手すりにかけてくれたのですが、それがまたおしゃれなんですわ〜。これぞ〈BLESS〉マジック!あ〜〜〜、楽しい!このあとわたしも白黒バージョンに挑戦するのですが、紐がより硬くて力がいるのと、配色の順番にも気をつかわねばならず、さらに難易度アップ。ぜいぜい。時間切れでこの日は途中で終了。
数日後、ふたたび作業場をたずねたら、ほかのサポートスタッフさんたちのがんばりで、めっちゃくちゃ捗っていました…! 紐バージョンのみならず、本物の竹(!)、金属の筒、石のオブジェ、ラインストーンのついたケーブルなどたくさん仕上がっていて、一気に作業場が〈BLESS〉ワールドと化している! なんでもないものを、なんでもなくする。そういった状況が生み出される、まさにその瞬間に立ち会っていることに、あらためて興奮を抑えられません。しかし作業はまだまだ、続きま~す…!
〈BLESS〉が手がけた演出の全貌は、わたしもぜひ会場で目撃したいと思います。早くもチケットが残り少なくなっているようなので、ご興味のある方はいそいでくださいね!