『どんぶらこ』
いとうせいこう
河出書房新社 ¥1,650
《人の暮らしはこんなに素早く簡単に追いつめられてしまうものか。》自宅近くの高齢者用住宅に両親を住まわせた息子。母が倒れたことをきっかけに、実家に戻った娘。《隠されるべき人間》になりつつある老人と、介護する者。2つの家族の日常が交差する先には、鬱病や認知症、経済的困窮などが待ち受けていて……。現代日本社会に沈む“老い”という不安を浮き彫りにした表題作。信州の伯父との記憶を頼りに、親族や土地を見つめ直していく連作短編「蛾」「犬小屋」も収録。
『しみ』
坂口恭平
毎日新聞出版 ¥1,400
シミの死をきっかけに、昔の仲間と邂逅するようになったマリオ。そこにはなぜか実在しないはずのシミの姿も。八王子やサーカスの舞台、ポルシェの中、草原の自治区……。場所や時間の垣根もない《思い出の幻覚世界》で交わす仲間との会話によって、マリオはシミの、そして《個》の実体をつかみ始めていく。《人間はもともとそれぞれに個性があるのではなく、ある一定の人間が集まると、集団に合わせて変容する。》坂口恭平の柔軟な身体感覚がドライブする青春小説。
『SOUND AND VISION』
角田 純
torch press ¥2,800
抽象絵画を描き続けてきた角田純が、約20年にわたって制作してきた書やアラビア文字、グラフィティなど、さまざまな文字のスタイルを取り入れたドローイングを集めた1冊。今までの作品での淡く溶け合う、心地よい色彩空間ではなく、自由にたゆたう線の世界が紡がれている。フェルナンド・ペソア、ディキンソンなどの詩人や、芭蕉や山頭火などの俳人、さらには角田が影響を受けた音楽家、芸術家へのオマージュとして、彼らにまつわる言葉の数々が美しい筆跡で現れる。