見過ごしてしまうような風景も、作品の中ではいつもとは異なる表情に映るもの。GINZAでおなじみのライター陣が紹介するのは、実在の場所が登場するおすすめの作品。思わずロケ地巡りに出かけたくなる、あのシーンの舞台、ここなんです!
🎨CULTURE
水辺に遊び歴史に触れる。あの漫画の舞台になったのは?鶴谷香央理『don’t like this』
『don’t like this』(18)
鶴谷香央理
大井ふ頭中央海浜公園夕やけなぎさ(東京都品川区八潮4-2-1)
大井競馬場前駅近くに暮らす主人公の生活は「don’t like」に包囲されている。たとえば家。たとえばお使い。残業に雨に雷に歯医者通い。そんな日々にふいに届けられた知人の言葉と電車内から見た情景に導かれるようにして、釣り堀や釣り場へ、釣り道具専門店へ、海へ足を向ける。目的は、鯉やハゼ、ニジマス、キス、イカに金魚釣り。うまくいく日ばかりではないけれど、初めて自分で釣った魚を食べて感動したり、海上でずぶ濡れになったり、早朝の運河で自分の足跡を振り返ったり。そんな瞬間の重なりに「don’t」が溶け出し、気づけばいくつもの「like」がプカプカリ。「好き」の反対は嫌いでも無関心でもなく、好きの蓋がまだ開かれていない状態かも。「好きなものだけが好き」という偏屈さは愛おしく、しばしば人をその人たらしめるものでもあるけれど、それは何かを好きになる可能性をたっぷり抱えているということなのかもしれない。映画化も話題の『メタモルフォーゼの縁側』の作者が、掌サイズの幸せを手渡してくれる4ページの魔法が20+1篇。海浜公園でのハゼ釣りは6月末からが本番。園内のしおじ磯、はぜつき磯、みどりが浜などでも釣りが楽しめる。
『don’t like this』(18) 鶴谷香央理 リイド社/¥836
Illustration: Toshikazu Hirai Selection&Text: Hikari Torisawa Edit: Tomoko Ogawa