見過ごしてしまうような風景も、作品の中ではいつもとは異なる表情に映るもの。GINZAでおなじみのライター陣が紹介するのは、実在の場所が登場するおすすめの作品。思わずロケ地巡りに出かけたくなる、あのシーンの舞台、ここなんです!
🎨CULTURE
さまざまなかたちの友情が在る場所。あの本の舞台になったのは? 絲山秋子『離陸』
『離陸』(14)
絲山秋子
矢木沢ダム(群馬県利根郡みなかみ町藤原字矢木沢)
かつて「越冬」の仕事があった群馬県利根郡の矢木沢ダム。管理事務所に駐在していた国交省の職員・佐藤弘は、星を見ようと外に出た真冬の夜、大柄なフランス人イルベールの訪問を受ける。彼は、弘の昔の恋人で、行方不明の貞方乃緒の息子ブツゾウと暮らしていると言う。母親から「水の番人」の物語を聞かされて育ったブツゾウにとって、弘はファンタジーのヒーロー。やがてパリのユネスコへ派遣された弘は、2人の家へ招かれ—。
乃緒という不在の人間が媒介する、不思議な友情の出発点として設定されている矢木沢ダム。利根川源流の入り口に位置する高さ131mのアーチ式ダムで、東京都の水道水をためている貴重な水源だ。原生林に囲まれたダム湖・奥利根湖は、景色のよさから日本のリトルカナダとも呼ばれる。
ダムの管理用道路は5月下旬から一般開放されている。開放に先だって行われる「春の点検大放流」は、毎秒30トンの豪快な放流を見られるだけでなく、飛沫を浴びられるとあって大人気。昨年、一昨年と中止になったが、今年は開催され賑わった。
『離陸』(14) 絲山秋子 文春文庫/¥1,001
Illustration: Toshikazu Hirai Selection&Text: Hiroko Kitamura Edit: Tomoko Ogawa