昭和の喫茶店を紹介しつつ、その店をイメージして聴きたくなる80年代の名曲を80s好きライターの水原空気がレコメンド。Vol.12はヨーロッパへ小旅行した気分になれる九品仏の洋菓子喫茶「パーラー ローレル」へ。
前回訪れたのは上野「王城」。
昭和の喫茶店を紹介しつつ、その店をイメージして聴きたくなる80年代の名曲を80s好きライターの水原空気がレコメンド。Vol.12はヨーロッパへ小旅行した気分になれる九品仏の洋菓子喫茶「パーラー ローレル」へ。
前回訪れたのは上野「王城」。
九品仏「パーラー ローレル」
「パーラー ローレル」は1980年オープン。奥沢の住宅街にひっそりと佇むパティスリー喫茶店だ。そのティースペースでお茶をしていると、お菓子を買おうと入れ替わり訪れる人たちの笑顔に気づかされる。「子供が誕生日なんです」「記念日だから」と誰もが口にしながらワクワクとした表情をたたえて、繊細で色鮮やかなスイーツや、クリームの絵が芸術的なバターケーキを注文していく。その帰り道にお茶をしていく人や、遠くからわざわざ訪れるカップルなど、客席も常に賑やか。
ティースペースには開業当時からのシックなテーブルや椅子が並び、壁には美しい植物絵などが飾られている。さりげなく洒落た空間でお茶していると、外国の歴史あるティールームにいるような気分に。ケーキ1つからイートインできるが、ショーケースを見ると思わず2つ以上欲張って食べたくなる。
甘さ控えめでフワリとした絶妙なお菓子を手がけるのは2代目の武藤康生さん。その味は、南仏のエキサン・プロヴァンスにあるドイツ系のお菓子店「リーデレ」や、ベルギーのブリュッセルにある「ピエール・マルコリーニ」での修業を経たオリジナル。なかでも目を引くのが青りんごの形をした「マンザナ」。艶やかで美しいフォルムは思わず見惚れてしまうほど。中には青りんごやカシスのムースがふんだんに。けれど薄いゼリーのヴェールに包まれたその形は、高度な技術とバランスで崩れることはない。ここではヨーロッパ仕込みの最新の味を小旅行気分で味わえるのだ。お父上であるオーナーシェフの武藤邦弘さんの手による、ホールのバターケーキも昔から大人気。代官山の「シェ・リュイ」の立ち上げに関わり日本洋菓子協会の副会長も務めるその技は、今も遠くからスイーツ好きたちが車を飛ばして駆けつけるほど。
バターケーキの「キリッシュ」。お父上の武藤邦弘さんが描くクリームの絵には誰もが感激。白いスポンジとバタークリームの間にチェリーが。
この店の帰り道に聴きたい80年代の名曲
『横顔』
大貫妙子
今回のおすすめは、大貫妙子の「横顔」。厳密には1978年秋の発売だけれど、80年代の訪れを予感させる透明な歌声は、ヨーロッパ・テイストなど歌謡曲とは違う音楽を模索していた当時の空気をしっかりと伝えてくれる。新しいもの、素敵なものを求めて、誰もが未知の世界を目指していた時代。お菓子作りに没通するお父上の横顔を見ながらどんなふうに息子さんが育ったのか、その想いも想像しながらスイーツと紅茶をぜひ。
水原空気のひとこと
「横顔」は大貫妙子さんが矢野顕子さんとデュエットした、2018年バージョンも味わい深い。世の中や人が、長い時間をかけてどう変わり、どう変わらずにいるのか。70年代からお互いをリスペクトしてきた二人の歌声や歌詞を聴いていると、それが自然と伝わってきてジンとくるのです。
「洋菓子・喫茶」という赤い看板を目印に。
80年代好きライター。夏の扉を開け秘密の花園へ時をかける探偵物語。GINZAウェブ「松田聖子の80年代伝説」でインタビュアーも。