昭和の喫茶店を紹介しつつ、その店をイメージして聴きたくなる80年代の名曲を80s好きライターの水原空気がレコメンド。Vol.17は巣鴨駅前にある「珈琲専門館 伯爵」で喫茶店の定番メニューと共に、80年代前夜の勢いを丸ごと永久保存した空間を、たっぷりと味わいたい。
前回訪れたのは中延「ニュープリンス」
昭和の喫茶店を紹介しつつ、その店をイメージして聴きたくなる80年代の名曲を80s好きライターの水原空気がレコメンド。Vol.17は巣鴨駅前にある「珈琲専門館 伯爵」で喫茶店の定番メニューと共に、80年代前夜の勢いを丸ごと永久保存した空間を、たっぷりと味わいたい。
前回訪れたのは中延「ニュープリンス」
巣鴨「珈琲専門館 伯爵」
巣鴨にある「珈琲専門館伯爵」は1978年のオープン。この年の出来事といえば…4月に後楽園球場でキャンディーズ解散コンサート。同じく4月に当時東洋一の高層ビルだったサンシャイン60が開館。5月に成田空港が開港すると、7月に映画「STAR WARS」が公開。続いてジョン・トラボルタ主演の「サタデー・ナイト・フィーバー」がディスコ・ブームを巻き起こし、年末にはピンク・レディーがレコード大賞を受賞。まさに日本全体がお祭り騒ぎの年に誕生した店なのだ。豪奢な貴族の館のような内装は、ヨーロッパ好きのオーナーのこだわり。44年の月日が流れても、当時の高揚感を存分に放ち続けている。
店内には、彫刻風の置物や意匠が幾つもあり、カラフルなステンドグラスを模したランプや個性的なシャンデリアが各所に散りばめられている。情報が多すぎで最初は戸惑うけれど、喫茶店らしい非日常感が楽しく、毎回いるだけで笑顔になっている自分に気づく。オーナーの趣味が存分に反映された異空間に、乾杯!
喫茶店の王道メニューはほぼ網羅されていて、ナポリタンやサンドイッチ、パンケーキも人気だが、今回はあえてラズベリーのクリームソーダをオススメしたい。非日常空間ですから、定番メニューだって、いつもと違うのを選ばないとね。薄紅のベリーカラーの向こうに見えてくるのは昭和の景色?
クリームソーダはラズベリーの他に、メロンとブルーキュラソーが。
少し硬めの「昭和プリン」は最近の一番人気。
館内に合わせたように、コーヒーフロートも優美な佇まいだ。
カリッとしたチーズの焼け目がクセになるドリア。
この店の帰り道に聴きたい80年代の名曲
『ミ・アモーレ』
中森明菜
今回のオススメは中森明菜の「ミ・アモーレ」。明菜さんの曲は南米や中東、カリブ海など、まだ訪れたことがない異国の地に一瞬で誘ってくれる。マイナートーンの旋律と妖艶なビブラートが、アラビアンナイトのランプのように非日常を瞬時に見せてくれるのだ。「伯爵」のコーヒーのアロマにもまた、同じ力を感じる。70年代の少女漫画に登場する貴族の館のような空間は、デフォルメされている分、余計に私たちの想像力を掻き立ててくれる。
水原空気のひとこと
都内には「王城」「古城」「騎士道」「ローヤル」など、中世ヨーロッパへの憧憬を感じさせるネーミングの喫茶店が多数。現在は検索すれば簡単に画像を見ることができるが、70年代は欧州の城や宮殿を見たことがない人も多かった。そのため、写真による想像と当時の内装技術の融合が、日本独自の喫茶建築を生み出したのではないだろうか。そんな仮説を立てて喫茶店巡りするのも、また一興。しかるに「開店された年」は重要なのだ。
朝はとげぬき地蔵にお参りするシニアが集い、昼過ぎにはオフィスワーカーが息抜きに訪れ、夜には喫茶店好きの若者がふらりと立ち寄る姿も。1978年の話を置いておいたとしても、長く続く理由がしっかりとある一軒でもあるのです。
80年代好きライター。夏の扉を開け秘密の花園へ時をかける探偵物語。GINZAウェブ「松田聖子の80年代伝説」でインタビュアーも。