花の仕事をしていると、小さな驚きや発見がいくつもあって、季節や気持ちに敏感になる。この連載は、そのきらめきやインスピレーション、自分を取り巻く素敵な出来事を、言葉や写真で書き出す様な、そういうもの。日常とファッションの関係を、ベッドで眠る前の3分間に。(photograph by Shun Wakui)
フローリスト・越智 康貴の”花咲くかげに” 03 – タイムレスなワードローブ〈CHANEL〉のコレクション
CHANELの2017年春夏プレタポルテコレクションの プレゼンテーションに行った。
シャネルは、アイテムの素材、色、香りなど何でも、5cm程度切り取るだけで、それがシャネルであることが一目瞭然な、かなり“確実なもの”がある。友人が、シャネルの口紅はサッとつけるだけテンションが上がる!と言っていたのを思い出す。すぐにシャネルの唇になる。
まず目に入ってきたのは、プラスティックの波打つ壁に、青、赤、黄色の配線ケーブル。
ワゴンの上にはキャップやバッグがのっていて、左右の壁にはライトの点いた柱のラックに数着の洋服が掛かってる。何だか少し、未来的。
ラックに掛かった服を手に取り、その素材をよく見てみる。ビニールの織り込まれたツイード生地や、ランジェリー風のレース使い、ベリベリッと留められる、タッチファスナー……。未来的だけれど、いま着たい、と思わせる様なバランスのワードローブ。新しさとクラシックの、明るい安定感がある。
この時点で、テーマが見えてくる。少ない言葉でも、言いたいことが伝わってくる。クリエーションのほんの一部を見るだけでわかる、シャネル特有の合理性と嬉しい予感に気分が上がる。
プレスの方に案内されて奥へ行くと、数体のマネキンがある。ランジェリーの上に軽く羽織ったツイードジャケット、スカートのファスナーは下まで閉じられてなくて、ヘアスタイルをごまかすようにキャップを被っている。靴もジャケットと同じくタッチファスナーでスピーディーに履けるもので、ネックレスはIDケースのようなモチーフ。カメリアまでもがタッチファスナーで着脱可能で、ラックにかかった状態より、遥かに軽快な印象に。
ファストであること。プライベートとパブリックの境界線。忙しく、情報過多な現代社会を生きる女性たちの、スピーディーでユーモアのあるスタイル。
テーマやデザインポイント、スタイリングのキーワードなどを聞くにつれて、全てが緩やかに繋がっていった。
シャネルが作ったアイコニックなもの。足がスマートに見えるベージュのボディに、汚れやすいトゥ部分は黒くしたフラットシューズ。女性の両手が空くように、ハンドバックにはチェーンを。いつの時代も、より自由な女性のイメージを、アイテムを通して明確にしていく。しかも合理的に。デザインというものが紙の上にただ線を引くことじゃなく、こういう合理性から生まれているということに本当に感動する。
生地ひとつ取っても、手作業とラグジュアリーの関係性が社会にダイレクトに繋がっていくシャネルのクリエーション。その遺伝子が、何年も何年も受け継がれ、それぞれの時代にマッチする姿に代わり、その度に人の喜びにコミットしていく。
エポックメイキングのまばゆい光に、美しさと合理性が豊かなユーモアと一緒に比例していた。
CHANEL
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越智 康貴
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涌井 駿
写真家。いま一番行きたい場所は中国のハイラル。
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