15 Oct 2019
私たちの21世紀メディア論 vol.1 本当の自分を取り戻せる場づくりに挑む『She is』

誰でも簡単に発信できるSNS時代に、あえてメディアをはじめる人たちがいる。情報に溢れたいま、本当に価値のあるおもしろいメディアとは? vol.1は、弊誌ginzamagのディレクター大平かりんが、気になる編集長とクロストーク。
〈She is〉
2017年に野村由芽と竹中万季がローンチした、ライフ&カルチャーコミュニティ。現代を生きる女性たちの声を集め、女性の生き方の多様性を広げるコンテンツを展開。編集部が発信する従来のウェブマガジンだけでなく、読者ひとりひとりがその人らしいかたちで参加できるイベントやサービスを提供している。
大平: 〈She is〉の企画や編集はお2人でやってらっしゃるんですよね。立ち上げのきっかけはなんだったんですか?
野村: もともと〈CINRA〉で企業や行政のプロモーションのお手伝いをしたり、メディアを立ち上げたりするなかで、竹中といっしょにいる時間が増えて。普段感じている〝違和感〟を前向きに変えていける力が似ているなって思ったんです。
竹中: たとえば、「仕事をがんばっているから、結婚は考えてないよね」と周りからいわれることがあったり。そういう日常の違和感に対して2人で話すことが多くなって。当時の仕事はクライアントさんの課題を中心に考えていたけど、もっと自分たちがいつも考えていること自体が仕事になったら、働き方や見える世界が変わってくるだろうし、もしかしたらどこかでそういう場所を必要としている人がいるかもしれないって思ったんです。
野村: 2人とも10代のころから雑誌やインターネットが大好きで、すごく救われてきたんです。わたしは『FRUiTS』を読んだときに、「前髪ってこんなに短くしていいんだ」とか、ビニールシートを服として巻いているスタイリングを見て「こんな服を着ていいんだ」って思えて。〝ここじゃない居場所〟を見せてくれるような、心の扉がどんどん開かれる感覚にすごく助けられてきました。でも、大人になると自分の好きなファッションや音楽について話すことはできても、社会では求められていないように感じて。ひとりひとりに〝これがめっちゃ好き〟っていうものはあると思うんですよね。そのエネルギーってすごいものだし、なにが好きかを考えることは、自分らしく生きる方法につながっていくから、核となっている部分まで深く潜って、本当の自分を取り戻すような感覚になる場所をつくれたらいいなと思ったんです。
大平: 竹中さんは、10代のころどんなメディアに影響を受けてきましたか?
竹中: わたしは、MTVやスペースシャワーなどの音楽番組を観ていました。アヴリル・ラヴィーンやグウェン・ステファニー、ソニック・
大平: 2017年に立ち上げてからもうすぐで2周年ですが、社会の変化のスピードが速いですよね。いまの女性像はなかなか絵に描けるようなものではなくて、ちょっとした違和感をキャッチアップして、意見を持とうとする女性なのかなと思うところがわたしにはあって。〈She is〉では、この2年間でそういった女性を取り巻く環境が変わってきた実感はありますか?
野村: 変わってきていますよね。以前、ある作家の女性にインタビューをしたときに、「フェミニストです」ってお話をしてくださったのですが、校正戻しのときに「本当にすみません……」とたくさんの赤字が入ってきて。10年前に〝男の人の三歩後ろを歩くような女性でいたい〟と自分がいっていた記事を読み返したんですって。そんなことすっかり忘れて〝フェミニスト〟っていってしまった自分がものすごく恥ずかしいとおっしゃっていて。それって過去に発言したことが間違っているわけではなくて、それはその時代の言葉と思考ですよね。そのときはそう考えていた理由や背景があるけど、人の考えはどんどんアップデートしていけるもの。ネットでの過去の発言は 掘り起こされて責められてしまうこともあるけれど、そうやって生きづらくするものじゃなくて、変わっていくことを肯定して、気づきのきっかけとしてポジティブに考えられる人が増えたらいいなと思っています。だから〈She is〉はそういう種を撒いていきたくて。いま起きていることに対して、いろんな人が声をあげることで提案になっていく。そういう女性が増えていることが本当に大きな変化じゃないかなと思います。
大平: いまのネットってあげ足の取り合いみたいになっていて、ちょっとした言葉が炎上しますよね。そのときは正解だったかもしれないし、ひとつの考え方だったのに、いつまでも残ってしまうし、検索したら出てくるし。雑誌みたいに物として色褪せもしないから、過去のものとして消化されにくい。だからそういったマインドが定着したら、インターネットの世界がもっとよくなりそうですよね。〈She is〉では、そうやっていろんな人が発言できる場所としてテーマを設けていますが、記事を読んでいるとこんなにバリエーションがあるんだなと思わされます。なかでも反響が大きかったテーマはありますか?
野村: いくつかありますが、2018年1月の特集「Dearコンプレックス」もそのひとつ。どうやって向き合ってきたかをアンケート形式でまとめた〈50人の「私」の声〉という記事はいまでもずっと読まれています。
野村: 「わたしはこうやって克服しました」という誰かひとりの成功物語ではなくて、克服した人もいれば、いま現在も悩んでいる人もいる。外見で悩む人もいれば、内面で悩む人もいるし、他人からすればもしかしたら些細に思えるかもしれないことで悩ん
竹中: これが絶対的な正解だっていうことを、あまりいいたくないと思っていて。〈VOICE〉という、それぞれのテーマにガールフレンド(〈She is〉の活動を支える、コントリビューターの女性)が自分の考えを寄せてくれるコンテンツがあるのですが、テキストを読んでみるとこの人とあの人では考え方が真逆だなとい
野村: 一方的に編集部から読者に届けるよりは、循環しているような関係性にありたいと思っていて。どんな人もきっとそれぞれがんばっているけど、がんばれない日もあって。そんな、ただ生きているなかでそれぞれが発信して、受け取って、ちょっと反応して。自分らしく生きる女性をお互いに祝福し、応援し合うような双方向があればいいなっていう。
大平: その分、読者との繋がりを維持していくのは大変ですよね。月刊誌は発売したらそれで終わることが多くて、「そのあとはご自由に」じゃないですか。ネットは発信者と、受け取る人がいる関係のなかで、双方向で立体的にメディアとして挑戦していかなきゃいけない苦しさと楽しさがありますよね。
竹中: 〈She is〉は〝場所〟であって、〝メディア〟とはいわないようにしているんです。「コミュニティメディア」と書いてはいるんですけど、2人で話すときは「場所」という言葉を使うようにしています。メディア機能は〈She is〉の一部。考えを深めたり、きっかけをつくったりするものとして記事をつくってはいるのですが、それだけではなくて、オンライン上で複数人が相互にコミュニケーションしてみようとか
野村: そこは本当にまだまだこれからという感じで。やっぱりメディアに見えると思いますし、説明するのはすごく難しくて。「〈She is〉という場所をやっています」といったら、「ギャラリーですか?」って聞かれたことも。すごくわかりにくいことをやっているなという実感はあります。でも、わかりやすいものはすでにあるから、挑戦していきたいんです。読者に〝自分の場所があるんだ〟って思ってもらえるような仕組みをつくっていくことを、もっともっとやっていきたいなと思っています。
野村 由芽 のむら・ゆめ
1986年生まれ。2012年、株式会社CINRAに入社後、カルチャーメディア〈CINRA.NET〉にてクリエイターやアーティストの取材・編集・企画制作を行う。2017年に〈She is〉を立ち上げ、編集長に就任。
竹中 万季 たけなか・まき
1988年生まれ。〈CINRA〉のクリエイティブ事業部でクライアントのオウンドメディア立ち上げやコンテンツ企画・記事制作などを担当。その後2017年より、〈She is〉プロデューサーに就任し、企画や編集などを行う。
Photo: Kisshomaru Shimamura Text&Edit: Satomi Yamada