23 Mar 2019
現代のモニュメントから、誰かの記憶を手繰りよせる。クリスチャン・ボルタンスキー展

クリスチャン・ボルタンスキー(1944 年-)は、現代のフランスを代表するアーティスト。東京都庭園美術館での個展のほか、越後妻有トリエンナーレや、瀬戸内国際芸術祭でも展示をしてきたので、地方の芸術祭で彼の作品を体験した人も多いかもしれない。そんなボルタンスキーの国内初となる大規模回顧展が、大阪の国立国際美術館で開催されている。
「クリスチャン・ボルタンスキー - Lifetime」展示風景、国立国際美術館、2019年 撮影:福永一夫
ボルタンスキーの作品の多くは、「自己あるいは他者の記憶」を扱う。1970 年代から写真を積極的に扱うようになったボルタンスキーは、1980 年代に入り、子どもの肖像写真と電球を祭壇のように組み合わせて展示した「モニュメント」シリーズ(1985 年-)で宗教的なテーマに取り組むようになる。
「クリスチャン・ボルタンスキー - Lifetime」展示風景、国立国際美術館、2019年 撮影:福永一夫
そして、《シャス高校の祭壇》(1987 年)という作品が大きな議論を生む。これは、1931 年にウィーンの高校に在籍したユダヤ人の学生たちの顔写真を祭壇状に並べ、その写真を電球で照らすというものだ。肖像写真を集めて展示する手法は、大量の死者の存在、具体的にはナチス・ドイツによるユダヤ人の大虐殺とその犠牲者のイメージを想起させるものとして解釈され、議論に発展したのだった。それは、第二次世界大戦期のユダヤ人の大虐殺は、ユダヤ系の父を持つボルタンスキーの出自とも結びつく。
《モニュメント》 1986 / 写真、フレーム、ソケット、電球、電気コード / 作家蔵
© Christian Boltanski / ADAGP, Paris, 2019 撮影: 福永一夫
何気ない日用品や人が使った痕跡が残る古着やモノを大量に集めて、現代の祭壇や宗教を彷彿とさせる立体やインスタレーションを作るボルタンスキーの作品。どこか不穏な空気が漂う。何かが欠けているように感じる不在の感覚が、今はなきものを想像させるのだろう。
そこには、何を信じるか関係なく、記憶を思い起こし、死者を弔う、人の基本的な営みがあるように思える。むしろ、各地に代々引き継がれる民俗ではなく、現代の人々がどこか見覚えがあり、説明なしにスッと理解できてしまう民間信仰のような気がするのだ。
《ぼた山》 2015 / 衣類、円錐形の構造物、ランプ / 作家蔵
© Christian Boltanski / ADAGP, Paris, 2019 撮影: 福永一夫
今回の展覧会では、初期の作品から最新作まで、半世紀にわたる創作活動の軌跡を紹介する。それを、ボルタンスキー自身が「展覧会をひとつの作品として見せる」と表現する会場構成で展示するという。今後、東京では国立新美術館、長崎県美術館と巡回予定だが、それぞれの会場に合わせて作家自身がインスタレーションを手掛けるというのも見どころ。東京に来るならば、と言わず、すべてを異なるバージョンとして見比べる旅を計画するのもいいかもしれない。
《ミステリオス》2017 / ビデオプロジェクション(HD、約12 時間)、3 面のスクリーン / 作家蔵
© Christian Boltanski / ADAGP, Paris, 2019, Photo ©︎Angelika Markul
クリスチャン・ボルタンスキー
1944 年、パリ生まれ。写真や身分証明書といった記録資料と衣服や文房具といった日用品を組み合わせることで、自己あるいは他者の記憶に関連する作品を制作し、注目を集めるようになる。子どもの肖像写真と電球を祭壇のように組み合わせた「モニュメント」シリーズ(1985 年-)や、大量の衣服を集積させた《ペルソンヌ》(2010 年)など、現在まで一貫して、歴史や記憶、死や不在をテーマとした作品を発表している。2006 年、高松宮殿下記念世界文化賞受賞。
【クリスチャン・ボルタンスキー − Lifetime】
開催期間: 開催中~5 月6 日(月・休)
開館時間: 10:00~17:00 ※金曜・土曜は20:00 まで(入場は閉館の30分前まで)
会場: 国立国際美術館 地下3 階展示室
住所: 〒530-0005 大阪市北区中之島4-2-55
休館日: 月曜日(ただし、4月29 日(月・祝)、5 月6日(月・休)は開館)
観覧料: 一般900 円/ 大学生500 円

柴原聡子
建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など