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圧倒的空間とドレスにまみれて味わう、トップメゾンの真骨頂 クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

圧倒的空間とドレスにまみれて味わう、トップメゾンの真骨頂 クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

 

 

東京都現代美術館で開催中の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展。展覧会の名のとおり、美しいものがつまった夢のような体験を求めて、連日多くの人が足を運んでいる。一度見た人もまだの人も、ぜひこの見どころを押さえてから行ってみて。


パリのギャラリストだったディオール

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

1946年に創業、それから70年超、ファッションの歴史を変え続けたディオールの軌跡を辿る本展。展覧会は意外にも、メゾン設立前の1930年代、ディオールがギャラリーを経営していたキャリアから始まる。当時のパリは世界の芸術の中心地。このギャラリーでは、近代美術のスターたち、ピカソ、ブラック、マティス、ダリ、ジャコメッティ…が展示をしたという。

 

ニュールックの衝撃

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

メゾン創業の翌年、1947年には後に伝説となる「ニュールック」を発表。クリスチャン・ディオールはファッションに革命を起こした。中でも女性を花に見立てた「バー」ジャケットは、このルックのアイコンとなり今も色あせない斬新さと美しさを見せている。このコーナーでは、代々のクリエイティブ ディレクターたちが敬意をこめてニュールックを再解釈してきたアイテムの数々を見ることができる。

 

ディオールと日本

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

黒を背景にしたシックな部屋に続く「ディオールと日本」の空間は、打って変わって柔らかな白い空間に。三次元に有機的なフォルムを描く壁は、和紙のような質感の素材も相まって、まるで繭玉の中にいるかのようだ。西洋のファッションブランドとして、1953年に初めて日本に進出したディオール。以来、築かれてきたメゾンと日本の絆はとても深いものだ。クリスチャン・ディオールは、幼少期から実家にあった日本の工芸品やテキスタイルに興味をもち、日本文化に惹かれていたという。帯の織物を大胆に使った当時のドレスからは、その深い理解と敬意がうかがえる。

 

数々のデザイナーが受け継いできたディオール

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

1957年に急逝したクリスチャン・ディオール。その直後に指揮を執ったのがまだ21歳だったイヴ・サンローランだったことは、よく知られた話だ。その後も、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、マリア・グラツィア・キウリと合計6名のデザイナーが、このメゾンの文化を継承してきた。初代が残したものに忠実でありながらも、独自の解釈を加え、常に進化を遂げてきたメゾン ディオールのオートクチュールたち。デザイナーごとのコーナーに分かれたこの空間では、それぞれの特徴と共に、通底するディオールらしさを味わうことができる。

なかでも、アンファン・テリブル(恐るべき子供)と呼ばれていたジョン・ガリアーノが手掛け、ファッション界に物議を醸したHobo(2000年発表)、構築的でミニマルなフォルムを得意としたラフ・シモンズのコレクションは、実物を見られたうれしさが相まって、感動もひとしお。

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

 

日本展のための撮りおろしビジュアル

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

続いて、写真家の高木由利子が日本展のために撮り下ろした作品がずらりと並ぶ。このビジュアルは、広告のメインビジュアルとなっているだけでなく、会場のあちこちに散りばめられていて、通奏低音のように本展の雰囲気を生み出している。ドレスをまとい踊るモデルたちは朧げな印象。その動きを追いかけるように揺れるドレープやシルエットの軌跡まで写り込む写真は、まるで幽玄の世界のよう。

華やかなオートクチュールの原型が大集合

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

そして突然現れる真っ白な部屋。壁一面に敷きつめられたトルソは、どれも白いコットン生地の服を着ている。これは、アトリエでデザイン画をもとに最初に作られる試作品「トワル」。これが原型となって、ブラッシュアップが重ねられていくのだそう。素材も色も統一されている分、デザインのシルエットやフリルなどのディテールの差が良く見える。どれも試作品とわかっていても欲しくなってしまう可愛さ。

 

夢がつまった「コロラマ」と「ミス ディオール ガーデン」

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

服や靴、小物からメイクアップ、香水まですべてをディオールでトータルコーディネートした「コロラマ」は圧巻。カラーごとにそれを着ている女性のイメージも変わるから不思議だ。

次の部屋はガーデンがテーマ。庭を愛したクリスチャン・ディオール。その理想の庭を再現したかのようなミス ディオール ガーデンには、草花や樹々がモチーフのきめ細やかな刺繍や細工がされたドレスが多数。CMでナタリー・ポートマンが着用したものもある。

 

輝く星よりもきらめくスターのために

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

一面きらめく星々のようなライトの下に並ぶのは、数々のスターたちが実際に着用したもの。映画の衣装にも多く関わったクリスチャン・ディオールが数々の映画人や俳優から愛されたのは自然なことだったのだろう。マリリン・モンローやグレース・ケリー、故ダイアナ妃も顧客だった。香水「J’adore」のために作られ、ミューズであるシャーリーズ・セロンが纏った黄金刺繍のドレス(写真中央奥)のきらびやかなこと。

 

ディオールのオートクチュールでいっぱいの夜会

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

展覧会のクライマックスとも言えるのが「ディオールの夜会」と題された吹き抜けのゾーン。建物の3層分を貫く壁に、イブニングドレスが天井まで何体も置かれている。戦後に実際に人気を博した仮面舞踏会をモチーフに、作られたこのインスタレーション。次々と変化するプロジェクションマッピングが本当は止まっているはずの服たちに動きをもたらし、じっくり一体一体を見るのとは違った楽しみ方ができる。

 

世界に広がるディオールのカルチャー

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

ディオールのアイコンバッグ「レディ ディオール」をモチーフに、数々のアーティストやクリエイターとのコラボレーションから生まれた作品が一覧できる豪華なコーナーを抜けると、イサムノグチのAKARIと共に、世界各地の文化にインスピレーションを得たドレスの数々が。アフリカや中東の装飾、古代ギリシャ・ローマ、日本の着物など、各地の文化に解釈を添えて表現したこれらから、ディオールが世界中に行き渡ると同時に、メゾンの表現もより多様化したことがうかがえる。

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展

ここには書ききれなかったものも多数、とにかくボリューム満点の展覧会だ。普段実物を目にできないオートクチュールがこれほど一堂に会する機会も珍しい。「夢のクチュリエ」というタイトルの通り、デザイナーが描いた夢をリアルなモノにするには、素材の選定、パターンやディテールの開発、職人の高い技術、そして途方もない製作時間が必要だ。そのどのプロセスにおいても、背後にある文化や歴史への理解があるからこそ、これほど人を惹きつけるものになっているのだろう。ファッションが多様になり、過去の流行も新鮮なものとして受け止められる今、トップメゾンの始まりと継承の軌跡を辿れる本展は、戦後ファッション史を初めて知る機会としても貴重だろう。

写真すべて:「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展示風景(2022年)東京都現代美術館 ©DAICI ANO

クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ

会期: 開催中~5月28日(日)
会場: 東京都現代美術館 企画展示室 1F/B2F
住所: 東京都江東区三好4-1−1
時間: 10:00~18:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日: 毎週月曜日休館

公式サイトはこちら

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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