『スリー・ビルボード』
なんていうセンス!と大いに笑わせてくれたのは、英国人劇作家のマーティン・マクドナー監督のクライムサスペンスだが、完全なブラック・コメディだ。米ミズーリ州で娘を殺害された母親が、無能な警察を批判するべく3つの看板広告を設置したことから起こる騒動を描く。フランシス・マクドーマンドが演じる母ミルドレッドが、とにかくド級のタフ。自らの正義のために猛進する姿はまさにテロリスト。一方で、レイシストとして悪名高い警官ジェイソンもどこか憎みきれない。多面性がない人間なんていない。その割り切れない感情が微かな希望につながっていく。2月1日より全国公開。
©2017 Twentieth Century Fox
『デトロイト』
1967年にミシガン州で起こったデトロイト暴動を題材にした、キャスリン・ビグローによる実録映画。アメリカ史上最大級の人種暴動事件の最中、さらなる惨事が起こる。おもちゃの銃の音を狙撃者による発砲と誤認した白人警察が、モーテルの宿泊客の若い男女9名(黒人男性7名と白人女性2名)に不当な尋問を行った。この自白強要がもうトラウマになるほど恐ろしいのだが、これは実際に巻き込まれた人の体験談から忠実に再現したものだという。そしてもっともやりきれないのが、50年経った昨今でも、白人の警官が黒人を射殺する事件が相次ぎ、罪に問われることがないという現実だ。1月26日より全国公開。
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『ぼくの名前はズッキーニ』
世界中の映画賞を総なめにした、クロード・バラス監督によるストップモーションアニメ。思わぬ事故で母親を亡くした9歳の少年イカールは、孤児院で暮らすことに。本作に登場する子どもたちのまなざしは、無垢であると同時にどこか大人びている。孤独と絶望を全部見てきたという目。母親から呼ばれていたズッキーニという愛称を大切にしながら、彼が同志を見つけ、関わり、そこから自立して彼自身の人生を歩み始める過程を見ていると、たくましくて、あたたかくて、少し泣いた。日本語吹き替え版は峯田和伸、麻生久美子、リリー・フランキーらが担当。2月10日より新宿ピカデリーほか公開。
©RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016