『人生タクシー』(15)
イランの名匠ジャファル・パナヒ監督は政府への反体制的な活動を理由に、映画製作を禁止されている状態。彼は、テヘランの街を走るタクシー運転手に成り代わり、ダッシュボードに置かれたカメラで、乗車する人たちとの人生や価値観についての対話を映し出す。観ていると、近所をドライヴするようにイランという街を、内側から覗いたみたいな気持ちになってくる。どこまでがフィクションでノンフィクションか、なんてことはどうでもいいのだ。映画を愛するすべての人たちに贈る、花束のような作品なのだから。
映画『人生タクシー』オフィシャルサイト
4月15日より、新宿武蔵野館ほかにて公開
©2015 Jafar Panahi Productions
『ムーンライト』(16)
第89回アカデミー賞受賞式で前代未聞のどんでん返しで作品賞を受賞した、ブラッド・ピッドのプロデュースによる、ほぼ黒人のみが出演するLGBT映画だ。マイアミの貧困地域に生まれ、麻薬常習者の母から育児放棄され、周りからもチビといじめられ、散々な少年シャロンの成長を3つの時期にわけて描く。バリー・ジェンキンスが監督する本編には、シャマラン的どんでん返しは待っていない。貧困、差別社会の中で何度打ち砕かれても、月の光の下で遊んでいた頃に静かに秘めたきらめく想いが、彼を生かすのだ。
映画『ムーンライト』公式サイト
TOHOシネマズシャンテほかにて公開中
©2016 A24 Distribution, LLC
『メットガラ ドレスをまとった美術館』(16)
NYメトロポリタン美術館で開催されるファッション界最大のイベント“メットガラ”。仕掛け人は、米国版『VOGUE』編集長のアナ・ウィンターと、メトロポリタン美術館の現首席キュレーターでトム・ブラウンの恋人としても知られるアンドリュー・ボルトン。15年の5月に開催された「China: Through the Looking Glass」までの8カ月を追うドキュメンタリーだが、『プロフェッショナル』的に2人の仕事術を楽しめるのはもちろん、スタッフ全員がギリギリまで粘り続ける姿はアクション映画にも負けないスリリングさがある。
映画「メットガラ ドレスをまとった美術館」公式サイト
4月15日より、Bunkamuraル・シネマほか公開
©2016 MB Productions, LLC