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『カムカムエヴリバディ』3代ヒロイン考察1 るい編に刻まれる安子(上白石萌音)の苦悩と笑顔

『カムカムエヴリバディ』3代ヒロイン考察1 るい編に刻まれる安子(上白石萌音)の苦悩と笑顔

NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の3代にわたるヒロインを考察する全3回のミニ連載です。第1回は、激動の昭和初期を生き抜いた初代ヒロイン・安子(上白石萌音)を、ドラマを愛するライター・釣木文恵が振り返ります。


不幸を一身に受ける初代ヒロイン・安子

昨年10月に放送を開始した第105作目となる連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。異例の「祖母、母、娘と3世代の100年間を3人のヒロインがリレー形式で演じていく」かたちでつくられた作品。この原稿を書いているいまは2人目のヒロイン・るい(深津絵里)が日々奮闘している真っ最中だ。

るいが結婚し、一度は決別した母のことを頻繁に思い出すようになっている今、あらためてるいの母で1人目のヒロインである安子(上白石萌音)について振り返りたい。

1925年、日本でラジオ放送が始まったのと同じ日に岡山の和菓子屋「たちばな」で生まれた橘安子。「ラジオ英語講座」とともに生きる彼女は、その英語を通じて名家・雉真家の跡とりである稔(松村北斗)と出会い、結婚する。しかし夫はまもなく出兵し、戦死。ひとり娘のるいを守るため必死に働く。

義母という障壁、戦争の足音、夫の戦死……。朝ドラの不幸詰め合わせともいえるほど、いろんなできごとが彼女に降りかかる。安子は娘と2人で裕福な婚家を出て、自分のルーツであるおはぎを作り、売って暮らす。貧しくとも前を向く安子。

これまでの朝ドラだったら、ここから和菓子屋の再建を果たす、なんて明るい方向に進む展開もあったかもしれない。けれども彼女にはさらに不幸が重なる。おはぎの配達中、るいにケガをさせてしまうのだ。娘の額に傷の残るケガは、親にとってどれだけ大きな枷となるだろう。結果としてこのケガは安子編の最後まで彼女を振り回し、そしてるい自身の人生にも大きな影響を与える。

雉真家に戻った安子は進駐軍の将校・ロバート(村雨辰剛)と出会い、英語のテキストづくりにも関わる。ここでもう一度、「日本とアメリカの橋渡し役として活躍チャンス」がやってくるかと思いきや、むしろこの出会いが安子とるいを引き離すきっかけになってしまう。稔と安子をつなげた英語が、安子とロバート(村雨辰剛)をも出会わせ、結果としてそれが彼女とるいを遠ざけたのだから皮肉だ。

最終週でヒロインから気持ちが離れる予想外の展開

「安子編」は8週、38話にわたって放送された。るいの登場へとバトンが受け渡されていく第8週は怒涛の展開だった。ずっと昔から安子を気にかけ、助けてきた稔の弟・勇(村上虹郎)からの求婚を保留にする安子。るいの傷を治す財力をもたない彼女は、和菓子屋「たちばな」再建を優先させ、娘と離れてくらすことを選ぶ。安子がロバートにほのかな思いを抱いていることに気づいた勇はやけを起こして雉真家の女中・幸衣(岡田結実)と関係をもつ。幸衣に思いを寄せていた安子の兄・算太(濱田岳)は自暴自棄になり、安子から預けられた通帳と印鑑を持ったまま消え、その算太を探しに行った先で安子は倒れてしまい、るいの入学式に出られない……。

ドミノ倒しのような不幸の連続だが、その発端は安子。これまで、彼女の不幸を心から悲しみ、安子を応援していた視聴者の中には、この最終週で心が離れてしまった人も多かったことだろう。安子は「るいのため」と呪文のように繰り返しながらも、娘の気持ちを考えているとはとてもいえない行動に出てしまう。結果、ロバートから「I love you」と告げられた安子が、最愛の娘るいからは「I hate you」と宣言される。
こんなに残酷なことはないが、この展開が2人目のヒロイン・るいへの移行をスムーズにさせたのは間違いないだろう。安子編のラストからぐっと時代が進んではじまったるい編の明るさに、どれだけ救われたことか!

上白石萌音は、3代に渡るリレーのスターターとしてこれ以上ない仕事をしたと思う。私たちは彼女の苦悩の表情に心を痛め、そのぶん彼女の笑顔におおきな喜びを感じた。安子編は朝ドラの王道と、予想を裏切る幕切れを見せてくれた。そしてるい編が進むいま、るいの記憶のなかにいる安子のたたずまいは、深津絵里と上白石の年齢差をまったく感じさせない。それは、彼女が「昭和初期の母」として苦労しながらも生きる姿を演じきったからだろう。

これから先、るいの安子に対する気持ちの変化を祈りながら、安子の再登場にも少し期待しながら、るい編の残り、そして3人目のヒロイン・ひなた(川栄李奈)の登場をたのしみに待ちたい。

NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』公式サイト

脚本: 藤本有紀
演出: 安達もじり、橋爪紳一朗、深川貴志、松岡一史
出演: 上白石萌音、深津絵里、川栄李奈(3代ヒロイン)他
語り:城田優
音楽:金子隆博
放送: 毎週月〜土午前8時~、再放送午後0時45分~(土曜日は一週間の振り返りを放送)
主題歌:AI「アルデバラン」

Profile

Writer 釣木文恵 つるき・ふみえ

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Profile

Illustrator まつもとりえこ

イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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Edit: Yukiko Arai

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