平坦な日常を深掘りすることで見える、「生活」の深さ、面白さ
マンガを通して見る、生活の深さ、面白さ
マンガには大きく分けて2つの喜びがあるように思われる。ひとつは、非日常を味わう喜び。異世界ファンタジーでもイケメンとの恋愛でもいいが、現実には経験できないあれこれを擬似体験させてくれるマンガを読むのは、とても楽しい。そしてもうひとつは、日常を深掘りする喜び。なんでもない生活が、深掘りすることで別の顔を見せ、輝き出す。それを“生活萌え”マンガ、と言い換えてもいいかもしれない。
今回紹介するのは、珠玉の生活萌えマンガである。『いのまま』は、作者の食生活を実に淡々と描いている。ちょっと乾いてしまったパンを発見するや、コーンスープにひたし、チーズをかけてコーンスープグラタンパンを作ったり、酔っ払って帰宅したあと、急に豆乳白玉ぜんざいを作りはじめたり。凝った料理ではないのだけれど、そのときの気分にフィットするものを、妥協せずに作る様子がとても素敵で、レシピ以上にその生活態度を真似したくなる。
『いのまま』 オカヤイヅミ
芳文社 ¥619
©オカヤイヅミ/芳文社
漫画家・イラストレーターのオカヤイヅミが、ひとり暮らしの食事情を綴る。イングリッシュマフィンのフルーツサンド、きのこ焼きおにぎり、もち米シュウマイ……目次を見るだけでもお腹が減る、食いしん坊必携の書。
『ニューヨークで考え中』では、NYに渡った作者が、地下鉄に乗ったり、クリーニング屋さんに行ったり、アメリカ人である夫の日本語学習の状況(まだカタコト)を観察したりしている。特別なことは何も起きないけれど、生活の細部が取りこぼされることなくマンガになっていることが、なんだかとても尊い。読むほどに「生活するって楽しい(忘れがちだけど)」と再確認できる、そんな生活萌えマンガに出会えたら、人生はもっと楽しい。
『ニューヨークで考え中』 近藤聡乃
亜紀書房 1〜2巻 各¥1,000
©近藤聡乃
見開き2ページで1話完結。シンプルだけれど後を引く面白さは3年ぶりに出た2巻でも健在。今やすっかりNYの人となった近藤聡乃が、夫と日本に帰国するエピソードが登場するなど、1巻からの時間の経過を感じられる。
Text: Yukiko Tomiyama Edit: Tomoko Ogawa