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子どもにとっていい空間は、大人にもうれしい。「子どものための建築と空間展」に学ぶ、ハイクオリティ・デザイン

子どもにとっていい空間は、大人にもうれしい。「子どものための建築と空間展」に学ぶ、ハイクオリティ・デザイン

子どもの頃、幼稚園や小学校、公園で遊んだ思い出…といえば、なんとなくイメージするものは共通しているはず、なんて思いこんでいた。けれど、この展覧会を見て、きっとまったく違うシーンで記憶している人もいるのだろうな、とびっくりした。

パナソニック 汐留ミュージアムで開催されている「子どものための建築と空間展」は、日本の近現代建築の中でも、子どもの学びと遊びの場となったものばかりを紹介する、ちょっと変わった建築展。予想もしない遊びを次々発明する子どもが伸び伸びできるよう、ひときわ独創的なものが集められている。


旧開智学校(重要文化財)1876年 立石清重 写真提供:旧開智学校

例えば、明治時代の小学校として紹介されているのは、長野県にある旧開智学校(1876年 立石清重)。文明開化を象徴する擬洋風建築が特徴だ。擬洋風建築とは、この時期に入ってきた西洋建築を、大工さんがみようみまねで作ってしまった建築のこと。真ん中のバルコニーの部分は、中国風の装飾の手すりの上に看板を持ったエンジェルがいたりして、その独特な折衷センスについ笑ってしまう。当たり前だが、当時は真剣。これこそ最先端を行くデザインだったのだ。


慶應義塾幼稚舎理科室内観 1937年 谷口吉郎 写真提供:慶應義塾福澤研究センター 撮影:渡辺義雄

今も人気の高い、フランク・ロイド・ライト+遠藤新設計の目白の自由学園は、なんと大正時代の建物。大衆文化が花開いた時代らしく、モダンな印象。同時期の谷口吉郎設計による慶應義塾幼稚舎も、これって小さい子ども向けの空間なの?というくらい、洗練されている。子ども相手だからといって手を抜かない建築家の意気込み(?)が感じられる。こんなところで育ったら、さぞや空間センスに長けた人になるのだろうなあ、なんて想像してしまう。


ゆかり文化幼稚園 1967年 丹下健三 写真提供:ゆかり文化幼稚園

戦後になると日本も豊かになり、教育にもいろいろな取り組みがされるようになる。これに伴い、実験的ともいえる空間が子どものために作られていく。本展でも紹介されている丹下健三設計の「ゆかり幼稚園」は、たまたま私の兄が通っていた幼稚園。兄から聞く話は、空間のことよりも、普通とはちょっと違ったクラス編成や遊びの方が多かった。そういった子どもの可能性を広げようとする教育的試みに、建築家も共鳴したのだろう。同じく60年代にオープンした「こどもの国」の遊具をイサム・ノグチがデザインするなど、この頃は挑戦的なデザインが多い。


宮代町立笠原小学校 1982年 象設計集団 撮影:北田英治

70年代以降、建築家たちは、子どもの個性を伸ばし、より生き生き伸び伸びと過ごせる場を作っていく。それぞれの表し方は千差万別。自然や周辺環境を取り入れるものや、あえて塀をなくして地域に開いていくもの、屋根がぜんぶ遊び場になっているものなど、子どもの空間はガンガン外に開いていく方向に進んでいるように見える。


ふじようちえん 2007年 建築家:手塚貴晴+手塚由比(手塚建築研究所)トータルプロデュース:佐藤可士和 Photo©Katsuhisa Kida / FOTOTECA

この展覧会を観て、子どものための理想的な空間はこれだ!という答えがわかるわけではない。多様性をどのように受け止め、ポジティブに開いていくかの実験は、今も続いている。子どもは大人が想像もしなかったことを次々思いついては遊ぶ。ドラえもんに出てくる空地みたいな場所だって、自由に遊んじゃうだろう。この展覧会に出てくるような学校や遊び場があれば一番、都市にもそんな余白のような場所がもっとあれば、子どもの想像力はよりいっそう羽ばたくはず。そうなったら大人だって楽しい。もしかしたら、子どものための空間は、誰にとってもうれしたのしい空間なのかもしれない。

 

子どものための建築と空間展
開催期間: 開催中~3月24日(日)
会場: パナソニック 汐留ミュージアム
開館時間: 10:00~18:00まで(ご入館は17:30まで)
休館日: 水曜日
入館料: 一般800円/65歳以上700円/大学生600円/中・高校生400円/小学生以下無料

 

※画像の無断転載禁じます。

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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