21 Jun 2022
ディオールが注目するクリエイター「アンナ・パパラッチ」 ダイナミックな遊びの空間幾何学

モード界をリードするブランドが、いま注目するクリエイターとは?コレクションを発表する場や文化のサポート事業を通じてタッグを組む、覚えておきたい最先端の才能を紹介する。
DIOR
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Anna Paparatti
アーティスト
ショー会場を華やかに彩った
ダイナミックな遊びの空間幾何学
1960年代へと旅をした春夏のディオール。そのセットデザインを手がけたアンナ・パパラッチは、前衛クリエイターたちによるカウンターカルチャーシーンが盛り上がった、60年代ローマを体現するアーティストだ。コレクション全体のインスピレーションともなったのが、現実に疑問を投げ、思索の場としての〝ゲーム〟を讃える彼女の代表的なシリーズ[Il Gioco del Nonsense(ナンセンスのゲーム/64)]や[Le Jeu de l’absurde(不条理のゲーム/65)]。色彩にあふれるジオメトリックな作品群は、そのまま巨大なルーレットボードを模したランウェイとなり再現された。
アンナ・パパラッチの60年代の作品にオマージュを捧げた舞台装飾。ランウェイはボードゲームをかたどったアート[ナンセンスのゲーム]をポップに描いたもの。3代目デザイナー、マルク・ボアンの〈スリムルック〉に着想した春夏コレクションの色使いと呼応する、鮮やかなカラーが漆黒の背景に映える。
アンナはイタリア半島南端にあるカラブリア州の出身。幼少よりインドや東洋の哲学、はるか遠い国々の文化に強く影響を受けた。18歳でローマの美術アカデミーに入学。教壇に立った画家のトティ・シアロイアに師事し、多くを学んだ。当時は一線で活躍する女性アーティストは数少なく、彼女もまた才能を認められるまでに長い時間を費やしたという。
「賢く才能ある、美しい画家だったけれど、(それは時に障壁となり)受け入れられる時代ではありませんでした。ひたすら描くことに没頭し、絵に救われたんです」と、ディオールのウィメンズ アーティスティック ディレクター、マリア・グラツィア・キウリとの対話で語っている。
アンナが20年を共に過ごした元パートナーのファビオ・サルジェンティーニと作ったギャラリー、ラティコには画家や作家、ソーシャライトなど若いアーティストが集結。また伝説のナイトクラブ「パイパークラブ」から新しいムーブメントが生まれていった。そんな刺激的な時代背景やその中心にいたアンナの、既成概念から女性を自由にする生き方、反骨精神に共鳴、今回のコラボレーションが実現した。
現在アンナは表舞台からは距離を置き、静かな環境に身を置きながら瞑想アートの世界を探求。今なおエネルギッシュに、絶えず変化する実験的な作品を制作し続けている。
アンナ・パパラッチ(左写真・左)の自宅を訪れたマリア・グラツィア・キウリ(右)。60年代ローマのアートシーンや、当時アーティストであり同時に母でもあったアンナが女性として向き合わざるを得なかった現実について言葉を交わした。ショー会場と同じように、部屋の壁にもカラフルな作品の数々が。今回のセットについてアンナは「すべてをブラックにしたいと考えました。私のベッドルームも黒なくらいですから。その背景の上で色が爆発して歌い出すんです」と説明している。 Photo: ©︎Carolina Amoretti
Profile

Anna Paparatti アンナ・パパラッチ
1946年生まれ。[The Great Game]と題された60年代の作品のほかに[Mandala]や[Porno Tantra]の連作でも知られる。著書に『Arte-Vita a Roma negli anni ’60 e ’70』。
Photo: ©︎Carolina Amoretti
Profile

Maria Grazia Chiuri マリア・グラツィア・キウリ
ディオールのウィメンズ アーティスティック ディレクター
Photo: ©︎Carolina Amoretti
Text&Edit: Aiko Ishii
GINZA2022年4月号掲載