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2001年、地球の風景と音 エスパス ルイ・ヴィトン東京 ダグ・エイケン《New Ocean: thaw》

2001年、地球の風景と音 エスパス ルイ・ヴィトン東京 ダグ・エイケン《New Ocean: thaw》

ダグ・エイケン《NEW OCEAN: THAW》2001年、エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2020年)
Courtesy of the artist and the Fondation Louis Vuitton Photo credits: © Keizo Kioku/Louis Vuitton


大きな6面のスクリーンに、氷河や空の映像が映し出されている。音響は、氷が割れる音や大きく崩れる音を採取したものとアンビエントのような音楽が溶けあっている。エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中の、ダグ・エイケンのインスタレーション《New Ocean: thaw》は、抽象化の一歩手前とも言えるイメージが万華鏡のようにめくるめく映し出される。

本作は2001年に発表されたもの。映し出されているのは、アラスカの景色、その空、解けゆく氷河だ。鑑賞者を取り囲むように配置されたスクリーンと地響きのような音響は、没入型の体験を生む。筆者は、2002年に東京オペラシティアートギャラリーで開催されたエイケンの個展で、これと同じ作品を見ている。そのときは、最先端の映像と音で、まさに没入型の体験に感動した。

エスパス ルイ・ヴィトン東京 ダグ・エイケン

それから20年余り(!)の時を経て、久しぶりに見たエイケンのインスタレーションは、その迫力は色あせぬまま、別の質感をもっているように感じた。映像の解像度は、もちろん今の高精細に比べると粗い。自然の環境音を取り込みつつ、ノイズとアンビエントを混ぜた電子音は、2000年前後のエレクトロニカの空気感を漂わせている。しかし、そこにあるはノスタルジーではない。ザラザラとした質感は氷河の重々しい物量感を思わせるし、映像をグラフィカルに扱う表現が、むしろ新鮮に感じられた。

エスパス ルイ・ヴィトン東京 ダグ・エイケン

VRといった没入型の最新テクノロジーは、リアリティがあることを良しとし、その精度を競う。このインスタレーションは、6面大パノラマという意味では、没入型の当時の最先端ではあった。しかし、明らかな「編集」を「守るべき大自然の風景」にほどこすことで、奇妙な違和感を生じさせているところが、単なる没入型体験とは異なる。例えば、太陽は、レンズによるフレア現象を起こし(カメラの存在が明らかになる)、氷河の音は電子音とミキシングされて音楽になっている。

エスパス ルイ・ヴィトン東京 ダグ・エイケン

ダグ・エイケンが初めに学んだのは雑誌のイラストレーションだという。1990年代中頃から取組みはじめた映像制作は、ポップアートのイメージから大きくインスピレーションを受けたもので、だから映像がミュージックビデオ的に見えるのかもしれない。ただ、編集と空間の活用に注目する中で、エイケンは根本にある知覚概念に向き合うことになる。

本作においても、空間に散りばめられたスクリーン群(それは四角いフレームという限界を持つ)とスピーカーから鳴る音は、散文的に鑑賞者の身体を包む。それは、目も耳もシームレスに取り囲まれるVRの体験とは異なる。しかし、このインスタレーションは、現実と作品世界の間を行き来するという点で、生の世界と溶け行く氷河が地続きに感じられると思った。今自分が立つ世界と、まったく違うスクリーンの向こうの世界。二つの違いを認識しつつ没入する体験は、リアルとは何かを考えさせる。

エスパス ルイ・ヴィトン東京 ダグ・エイケン

同じく、会場で見られるエイケンの最新ドキュメンタリー映像では、音に注目したパビリオンが紹介されている。地中深く、200m掘った穴から聞こえる音を増幅させるというその装置は、「見えない風景」の描写を模索と言える。移動、磁気変動、情報、そして周波数に深い影響を受けた景色。テクノロジーに頼るのではなく、巧みに使いこなすエイケンの作品は、その時々の質感をもって、これからも「地球の風景」を記録していくのだろう。

以上写真すべて:ダグ・エイケン《NEW OCEAN: THAW》2001年、エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2020年)
Courtesy of the artist and the Fondation Louis Vuitton Photo credits: © Keizo Kioku/Louis Vuitton

Profile

ダグ・エイケン

1968年、アメリカ、カリフォルニア州レドンドビーチ生まれ。アート・センター・カレッジ・オブ・デザイン(カリフォルニア州)で学び、1994年にニューヨークへ移る。現在は、ロサンゼルスを拠点に活動。

エイケンの作品は、写真、彫刻、建築的介入から、映画、サウンド、シングルおよびマルチチャンネル・ビデオ、インスタレーションまで多岐にわたります。自身の言葉によれば、「映画の編集は作曲のようなもの。実のところ、映像にはあまり関係がない。究極の編集体験は、映像を排除し、点滅する光のトーンをひたすら見つめることだろう。それが編集の生み出すもの、すなわち、光の移ろいと動きだ。それは壁紙のロールのようだ。ナレーションは、動く光に巻かれている」。自らの作品の持つ深遠な抽象性を断言することで、エイケンは自身が手掛ける作品の逆説性を強調します。

エイケンの作品は、ホイットニー美術館(アメリカ、ニューヨーク)、MoMA PS1(アメリカ、ニューヨーク)、ウィーン分離派会館(オーストリア)、サーペンタイン・ギャラリー(イギリス、ロンドン)、ポンピドゥー・センター(フランス、パリ)、クンストハレ・チューリッヒ(スイス)、パリ市立近代美術館(フランス)など、世界各地の多数の展覧会で取上げられてきました。1999年には、インスタレーション《electric earth》でヴェネツィア・ビエンナーレ国際賞を受賞。その他にも、2012年ナムジュン・パイク アートセンター賞(韓国、ソウル)、2013年スミソニアン・マガジン・アメリカン・インジェニュイティ・アワードのビジュアルアート部門賞、2017年第1回フロンティア・アート・プライズ、2019年アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン生涯功労賞など数々の賞を受賞しています。

Doug Aitken「New Ocean: thaw」

会場: エスパス ルイ・ヴィトン東京
住所: 東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7階
会期:
開催中~2021年2月7日(日)


公式HPはこちら

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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