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渋谷最高峰の展望室から、少しだけ過去の「渋谷」を見る 「DOWN TO TOWN」展@SHIBUYA SKY

渋谷最高峰の展望室から、少しだけ過去の「渋谷」を見る 「DOWN TO TOWN」展@SHIBUYA SKY

現在、渋谷最高峰の展望回廊「SKY GALLERY」で開催中の「DOWN TO TOWN」展。「都市空間のおける表現の拡張」をテーマにアート活動を展開するSIDE COREをキュレーターに迎え、匿名アーティストグループ・EVERYDAY HOLIDAY SQUADの個展として開催する、一風変わった展覧会となっている。

SKY GALLERYは渋谷スクランブルスクエアの46階にある屋内展望スペースで、眺めは圧巻だ。四周がすべてガラス張りになっていて、壮大なパノラマビューが楽しめる。特に眼下に広がる渋谷の街は、空から真下を見ているような角度になるので、ちょっと怖いくらい。


展示風景会場風景 主催者提供

今回SIDE COREのメンバーは、渋谷を俯瞰するここからの眺めから、チャールズ・イームズ&レイ・イームズが70年代に発表した作品「Powers of Ten」を連想したそう。これは、芝生の上で寝ている一人の人間を見下ろす風景から始まり、成層圏→地球→太陽系→銀河ととてつもない距離を取っていくマクロな視点と、逆に人間の体の中に入り込んでいき細胞レベルまで寄っていくミクロな視点をつなげた画期的な作品だ。SIDE COREは、この空間的なスケールに加えて、過去や現在という「時間の流れ」にフォーカスしている。

「こうやって上から見ると、過去の記憶がよみがえってくるんですよ。むしろ、変わってないところを積極的に探してしまう。あそこで作品を作ったなとか、グラフィティを探してたこととか。この風景が自分の脳の中に近いというか……、ある種の記憶装置のように見えるんです」(SIDE COREメンバー高須咲恵さん)

「DOWN TO TOWN」展
会場から見える風景 筆者撮影

スケボーやグラフィティといったストリートカルチャーに近いところで活動してきたSIDE COREは、渋谷でもたくさん作品を作ってきた。もちろん、この街は多くのストリートアートの舞台となってきた場所でもある。ただ、ここ最近開発が進む駅周辺を歩いていると、あまりの激変ぶりに少し前の風景さえ思い出せないことがある。なのに、高いところから俯瞰すると過去が見えてくるという矛盾が面白い。

「DOWN TO TOWN」展@SHIBUYA SKYEVERYDAY HOLIDAY SQUAD《rode work(ver.tokyo)》2018(re-edit 2022)の展示風景 SIDE CORE提供

回廊空間にある変型モニターに映し出された映像は、2018年に発表した《rode work》を軸に、今回の展示用に再編集した作品だ。映像には、工事作業員の恰好をしたスケーターたちが、移動式バンクの部材を持って一般道路を駆け巡り、さまざまな場所でゲリラ的にバンクを設営して滑る様子が映し出される。彼らが疾走するのは、コロナ前の東京。当然ながら誰もマスクをしていないし、風景も少しだけ違う。建設中の渋谷スクランブルスクエアもチラリと映っている。

「この映像はたった4年前のものなのに、古く見えるんです。コロナになって、たくさんの人がステイホームを続けたことで、都市を歩いたり走ったりするフィジカルな感覚が薄れてしまったことが影響しているのかな。SNSで流れてくる情報のスピードもすごく早いけど、スマホの中の情報を部屋の中で見てるだけでは思考が廻らないんですよね。たとえば、こんなに大きなビルがなくなっても、数年後にはここなんだったっけ?ってなるかもしれない。この映像は、自分の身体で都市を感じていたコロナ前の感覚を、思い出させてくれる気がします」(高須さん)

映像の両サイドは、絵巻物のように横に細長いモニターがあり、工事現場にある赤く点滅するロープが映されている。夜になるとこの映像が窓ガラスにそれが反射し、窓の向こうの夜景に重なって見える。街が変化していくのに、工事は欠かせない。工事現場は、変わり続ける渋谷を象徴する風景だと言えるだろう。

注目は、会場に2つ置かれた望遠鏡。覗くと、実際のビルに人間大のネズミの人形が見える。ネズミは作家自身のポートレートでもあり、ストリートアートにもよく登場するモチーフだ。都市を縦横無尽に移動する神出鬼没のネズミは、街に暮らす人々にも重ねられる。

「この場所みたいに身体で理解できるレベルを超えた高さから見ていると、どうにも非現実的と言うか、映像を見ている気がしてきます。でも、ビルの屋上とか人がいそうにない場所に人っぽいものがいると、見知った風景にズレが生じていきなり現実に引き戻される。今この瞬間、あのネズミはあの場所に実際にいるんだ!って」(高須さん)

そんな時間感覚の行き戻りが体感できるのも、この展示ならでは。少しだけ過去と現実を接続する試みは、地図の作品にも表れている。手描きの地図には、暗渠となった渋谷川や、伝説的なライターが書いたグラフィティ、アーティストによる壁画、かつて渋谷に200軒以上あったレコ屋街など、ストリートカルチャーにゆかりのある場所がプロットされている。

「ここからの眺めはほとんど真上から渋谷を見ることになるので、地図を見ている状態に近い。でも、地図にプロットしてあるのは、私たちが憶えている渋谷だったり、今は暗渠になっている川だったり、普通に過ごしていたら見えないものや出来事です。それでも、90年代に書かれたグラフィティが実際に今も残っているとか、知識を得た上で訪れれば、それらは浮かび上がってくる。この地図を持って散歩すると、見えてなかった場所同士がつながっていく面白さが味わえるはず」(高須さん)

「DOWN TO TOWN」展会場風景 主催者提供

都市は、人が集まることでカルチャーが生まれる場所。その役割はコロナによってだいぶ弱められてしまった。高いところから眺める近過去と、自分の足で歩く現実の行き来が仕組まれたこの展覧会は、私たちがどう都市と付き合っていくかについて考えるきっかけを与えてくれそうだ。

「相対性理論で考えると、山の上とかすごく高いところは、本当に僅かな差ですが、時間の流れが早いらしいんです。地上240メートルにあるここも、きっと地上よりちょっと未来の時間が流れているんだろうなって。真新しいビルの一番高いところから、少しだけ過去の渋谷を見て、自分の記憶と重ねてみる。そんなふうに楽しんでくれたらいいですね」(高須さん)

 

「DOWN TO TOWN」展@SHIBUYA SKY

Profile

SIDE CORE サイドコア

2012年より活動開始。メンバーは高須咲恵(たかす さきえ)、松下徹(まつした とおる)、西広太志(にしひろ たいし)。ストリートカルチャーの視点から公共空間を舞台にしたプロジェクトを展開。路上でのアクションを通して、風景の見え方・在り方を変化させることを目的としている。野外での立体作品や壁画プロジェクトなどさまざまなメディアを用いた作品を発表。主な展覧会に「水の波紋」(2021、ワタリウム美術館、東京)、「under pressure」(2021、国際芸術センター青森、青森)「Alternative Kyoto」(2021、京都)などがある。

Photo by Shin Hamada

Profile

EVERYDAY HOLIDAY SQUAD エブリデイ・ホリデイ・スクワッド

2015 年度よりSIDE COREと共に活動する匿名アーティストグループ。アーティスト、キュレーター、映像作家等が参加している。ストリートカルチャーの視点から都市空間やそこにあるルールに介入していく、遊び心溢れたアート作品を制作している。

「DOWN TO TOWN」

会場: 渋谷スクランブルスクエアSHIBUYA SKY 46階「SKY GALLERY」
開催期間: 開催中~7月24日(日)
休: 無休

公式サイトはこちら

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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