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色あせることのない、鮮烈な空間と時間の体験 ダムタイプ|アクション+リフレクション

色あせることのない、鮮烈な空間と時間の体験 ダムタイプ|アクション+リフレクション

TOP画像: Dumb Type《pH》 Photo: Shiro Takatani

日本を代表するメディアアーティストグループ、ダムタイプ。その個展が東京都現代美術館で開催中だ。ダムタイプは、1984年に京都市立芸術大学の学生を中心にマルチメディア・パフォーマンス・アーティスト集団として結成。中心的であった古橋悌二(1960-1995) をはじめとするメンバーが独自の表現活動を展開しつつコラボレーションを行っていった。バブル経済に沸く1980年代の日本で、「情報過剰であるにもかかわらずこれを認識できていない(=ダム(dumb:間抜け、ばかげた、口をきこうとしない、の意)状態」を敏感にとらえ、鋭い批評性をもった活動は国内外から大きな注目を集めた。


Dumb Type《Playback》
Dumb Type《Playback》©Centre Pompidou-Metz / Photo Jacqueline Trichard / 2018 / Exposition Dumb Type

「ダム(セリフの排除)」という手法を選択し、装置、映像、音、これらに反応するパフォーマーの生の身体によって構成される彼らの作品は、デジタルと身体が新たな関係を持つことで生まれる「ポストヒューマン」のヴィジョンを、その革新的な視覚言語と思想によって表現したパイオニアといえるだろう。

本展は、2018年にフランスのポンピドゥー・センター・メッス分館で開催された個展をバージョンアップした内容。結成35周年の契機に、新作を含む6点の大型インスタレーションを一挙に目にすることができる。圧倒的な空間体験によって、ダムタイプの世界が味わえる貴重な機会だ。

Dumb Type《pH》
Dumb Type《pH》 Photo: Kazuo Fukunaga

《pH》2018は、パフォーマンス《pH》(1990年初演)の象徴的な舞台装置を再現した作品。初演では、大きなトラスがパフォーマンス・エリアを横切るように移動し続け、常時パフォーマーの動きを制限していた。今回は、そのトラスが、スキャナーのようにコンピュータ制御で動き続ける。
「pH」とは、物質の酸性/アルカリ性の度合を示す用語。パフォーマンスは、二項対立の図式にそって13のphases―「問い/答え、イメージ/言葉、事実/虚構、拡張/圧縮、公/私、現実/非現実、攻撃/防御、緊張/弛緩、生産/再生産、男/女、外/内」、そして最後に第一場と最終場に共通する「開始/終焉/再開」から構成されていた。

Dumb Type《S/N》
Dumb Type《S/N》Photo: Yoko Takatani

《LOVE/SEX/DEATH/MONEY/LIFE》2018は、1994年に開催された展覧会「人間の条件」展のために制作されたビデオインスタレーション。その映像は、同年初演のパフォーマンス《S/N》の舞台でも投影された。《S/N》というタイトルは音響用語の「S/N 比」に由来し、「Signal/Noise」を意味する。ジェンダー、エイズ、セクシュアリティなどを軸とし、人種、国籍、あらゆるマイノリティや性差別など、現代社会が抱える諸問題を正面から捉え、パフォーマンスのみならず、周囲のさまざまなコミュニティとの交流・連携といったアクティヴィズムまでも巻き込み、展開された。

Dumb Type《OR》
Dumb Type《OR》 Photo: Emmanuel Valette

《MEMORANDUM OR VOYAGE》2014は、ダムタイプの過去3作品《OR》(1997)、《memorandum》(1999)、《Voyage》(2002)から印象的/象徴的なシーンをピックアップし、新しく撮影した映像素材を組み合わせて一つのビデオインスタレーション作品として制作したものだ。
古橋悌二が死の直前に書き残した次回作のコンセプトメモ「生と死の境界について」「どれほど科学はその境界を制御できるか、どれほど我々の精神はこの境界を制御できるのか。」というアイデアから出発した《OR》。16人のメンバーによる「記憶」に関するオムニバスであり、圧縮された多くの記憶の断面を時間軸上に組み上げた迷宮のような複雑な構造を持つ《memorandum》。ダーウィンの『ビーグル号航海記』のテキストが画面全面に映し出され、ビーグル号が旅した世界地図がテキストに重ね合わされる《Voyage》。3つの異なる作品が折り重なる新たな映像インスタレーションは、単に過去の作品をめぐるのとは違う、新たな体験になるだろう。

Teiji Furuhashi《LOVERS》
Teiji Furuhashi《LOVERS》Photo: Nobutada Omote 1994/2001 所蔵:国立国際美術館

エイズによる感染症のため1995 年に35歳で急逝した古橋悌二。彼の遺作であり、パフォーマンス《S/N》と同時期に制作され、古橋にとってコインの表裏のような存在であった作品《LOVERS》(1994/2001 (second edition) 国立国際美術館所蔵)も展示される(2020年1月19日まで)。

ダムタイプは、現代の社会が抱えるさまざまな問題に言及しつつ、それをあらゆるメディアを縦横無尽に使いこなし、このうえなく洗練された形でみせてくれた稀有な集団だ。アートに目覚めた10代後半、彼らの作品のほんとうの意図や意味まで理解はできていなかったが、かっこよくて、スタイリッシュで、骨太で、とにかくあこがれていた。
そして、結成から35年経った今も、彼らが言及していた問題―テクノロジーと人間、ジェンダー、マイノリティ、国籍、人種など―は、解決にはいたっていない。もちろん、一筋縄に解決する問題ではないし、解決すればよいというものでもない。その複雑さを、私たちはどう受け止め、受け入れていくのだろう?そんなときアートは、作品を通して、複雑で絡まった現在を差し出してくれる。彼らの色あせない作品に、未来の希望の種を探してみてほしい。

ダムタイプ

ダムタイプは、ヴィジュアル・アート、建築、コンピューター・プログラム、音楽、映像、ダンス、デザインなど様々な分野の複数のアーティストによって構成されるグループである。1984年に京都で結成以来、集団による共同制作の可能性を探る独自の活動を続ける。美術、演劇、ダンスといった既成のジャンルにとらわれない、あらゆる表現の形態を横断するその活動は、プロジェクト毎に作品制作に参加するメンバーが変化するなど、ゆるやかなコラボレーションによって、現代社会における様々な問題への言及を孕む作品を制作してきた。1995年にグループの中心的存在だった古橋悌二がエイズによる感染症のため急逝するまで、初期ダムタイプを代表するパフォーマンス作品《Pleasure Life》(1988)、《pH》(1990-1995)、《S/N》(1994-1996)は世界中で上演され、古橋の死後もダムタイプは高谷史郎のディレクションのもと、《OR》 (1997-1999)、《memorandum》 (1999-2003)、《Voyage》 (2002-2009)といった作品群を、従来通り参加メンバーによる共同制作で創作活動し続けてきた。2018年1月から5 月にポンピドゥー・センター・メッス分館にて、ダムタイプ初の大規模な海外個展を開催。また2020年3月には、ロームシアター京都にて、約18 年ぶりとなる新作パフォーマンスの上演を計画している。

* 詳細は作家URL 参照 http://dumbtype.com/

古橋悌二(1960-1995)

1960 年京都生まれ。京都市立芸術大学美術学部構想設計専攻在学中の1984 年に「ダムタイプ」創設、中心的メンバーとして活動。1985 年東京国際ビデオビエンナーレ奨励賞受賞。ダムタイプのメンバーとして、大阪国際演劇祭 (1986)、ニューヨーク国際芸術祭 (1988)、ICA /ロンドン (1988)、デンマーク王立美術館 (1988)、「Against Nature」展、全米巡回 (1989-1990)、Wiener Festwochen /ウィーン (1992) 、Centro de Arte Reina Sofia /マドリード(1992)、シドニー現代美術館(1992)、アデレード・フェスティバル (1994)、グッゲンハイム・ソーホー/ニューヨーク (1994)、モントリオール現代美術館 (1994)、ニューヨーク近代美術館 (1995)、The Power Plant /トロント (1995)、サンフランシスコ近代美術館 (1995)、ARHUS FESTUGE /オーフス (1995)、ハーバーフロント・センター/トロント (1995)、SPIEL.ART /ミュンヘン (1995) 等で作品を上演、展示。古橋がディレクションしたビデオ作品「pH」 は、1992 年、IMZ-dance screen ’ 92(ドイツ)Best Stage Recording 賞、TTVV-Riccione(イタリア)Sole d’ Oro 賞を受賞。

ダムタイプ|アクション+リフレクション

会場: 東京都現代美術館 企画展示室 1F
会期: 2019年11月16日(土)-2020年2月16日(日)
休館日: 月曜日(2020年1月13 日は開館)、2019年12月28日-2020年1月1日、1月14日
開館時間: 10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
観覧料: 一般1,400円/ 大学生・専門学校生・65歳以上1,000円/中高生500円/小学生以下無料

柴原聡子

建築設計事務所や美術館勤務を経て、フリーランスの編集・企画・執筆・広報として活動。建築やアートにかかわる記事の執筆、印刷物やウェブサイトを制作するほか、展覧会やイベントの企画・広報も行う。企画した展覧会に「ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室」、「スタジオ・ムンバイ 夏の家」など

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