写真家、森栄喜が見せる虹の詩
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写真家、森栄喜が見せる虹の詩

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まちなかでの出会いが日常を変える

この秋、池袋で開催される東京芸術祭2018には、今が旬の多種多様なパフォーミングアーツのプログラムがもりだくさん。まさに、都市・東京を舞台にしたビッグなアートフェスティバルとなっている。こちらの記事(記事へリンク)でもご紹介した『野外劇 三文オペラ』や『ガラスの動物園』などとともに、10月13日(土)から約一ヶ月間にわたり開催される。

フェスティバル/トーキョー18は、池袋を中心に都内各地で数々の公演やイベントが展開されるパフォーミングアーツのフェスティバル。その中に、まちなかで繰り広げられるプログラム「まちなかパフォーマンスシリーズ」がある。劇場という異空間で没入するのとは違って、普段見慣れた風景に突然現れるそれらは、当たり前だと思っていた日常をガラッと変えてしまう。

 

都電の中から生放送される「ラジオ番組」形式の演劇、庭園の中にある平屋建ての数寄屋建築で繰り広げられる一風変わったお茶会、お寺が舞台の若手アーティストによる演劇公演。場所も表現も全然違うこれらのプログラムのひとつに、写真家の森栄喜さんによる朗読パフォーマンスもある。

森栄喜さんは、東京に生きる少年達をとらえた2011年発表の『tokyo boy alone』で注目を集め、自身と恋人、友人たちとの日々を記録した『intimacy』(2013)で木村伊兵衛写真賞を受賞した。それらは、とても繊細で、静かで、美しい。自らゲイであることを公表している森さんは、作品を通して、同性婚など日本でのLGBTが置かれた社会的状況に積極的にコミットしている。大げさではなく、そっと語りかけてくるようなやり方で。

「家族」をテーマにした『Family Regained』

森さんがフェスティバル/トーキョー(以下、F/T)に参加するのは2回目。昨年は「家族」をテーマに、『Family Regained: The Picnic(ファミリー・リゲインド:ザ・ピクニック)』を発表した。森さんともう一人の男性、そして子供の3人が、赤色の服を身にまとって池袋の街中を歩き、道すがら出会った人に使い捨てカメラで3人の「家族写真」を撮影してもらう。第三者に写真に収めてもらうたび、家族として肯定されていくように見える3人。そのプロセスを捉えた映像を、池袋西口公園に特設された大型スクリーンと豊島区庁舎で上映するプロジェクトだった。人通りの多い「まちなか」に映し出された映像は、偶然通りがかった人たちの目に触れた。

 

『Family Regained: The Picnic』の上映風景(上)と、撮影された写真(下)
©︎Eiki Mori

同性婚をテーマにした作品『Wedding Politics』(2013~2016)は男性二人がウェディングコスチュームを着て道行く人々に撮影してもらうものだった。これと似た方法をとったこの作品は、子供という存在が加わることで、「パートナー」や「恋人」からもう一歩踏み込んだ「家族」の在り方が浮き彫りになった。そして、今年発売された写真集『Family Regained』には、友人や恋人、夫婦といったいろいろな家族に、森自身が写り込んだ家族写真が編まれている。

© Eiki Mori Courtesy of KEN NAKAHASHI

「この作品は、「家族」という言葉から発想されるイメージや固定観念を今一度捉え直し、『未来にあるかもしれない家族のようなつながり』を、自由に思い描いてみる試みでした。同年代の友人やカップル、家族の暮らしに僕自身が飛び込み、写真に写り込むことで、それぞれの家族たちの世界がパラレルに未来へ拡張していくイメージです」(森さん)。

『Family Regained』の写真は、どれも真っ赤に染まっている。赤の激しさは、思いの激しさ、異物感、緊張感、怒り、希望……、さまざまな感情や感覚の表れのようでもある。

詩と朗読だからこそ、伝えられること

そして今回、森さんが表現方法とするのは、「詩」の朗読。これまでの写真や映像ではなく、言葉と声で表現する。きっかけはNY留学中に出会った、LGBT当事者たちによる朗読会だった。個人的な出来事から政治や社会にかかわるものまで、多様なテーマを詩に込めて表現することに触発されたという。

© Eiki Mori Courtesy of KEN NAKAHASHI

「写真は、実際に目の前にある物や事象を捉えるのにとても適したメディアだと思っています。ただ、今回の作品『A Poet: We See a Rainbow』は、1980年代後半、9.11前の2000年前後、現在の2018年という異なる時間が出てくるし、場所もニューヨーク、マヨルカ島、東京とさまざま。登場人物も老詩人、青年、留学生と、世代も国籍も違う三名で、フィクション性も強い。テキストを朗読するパフォーマンスという形が、この物語を一番まっすぐに強く伝えられると思いました」(森さん)。

© Eiki Mori Courtesy of KEN NAKAHASHI

といっても、ストレートな朗読の表現ではないらしい。「仕掛けというか種明かしのようなものもある、いわゆる普通の『朗読』の印象とは異なる朗読パフォーマンスになります。目と耳と皮膚を通して、鮮烈に、全身で体感してもらえれば嬉しいです」(森さん)。時にイメージよりも直接的に何かを伝える言葉は、私たちに何をもたらしてくれるだろうか?

「Letter to my son」と「A Poet: We See a Rainbow」

ヒントとして、現在『週刊読書人』で連載中の小説「Letter to my son」も読んでみてほしい(こちらから読むことができる)。意味ありげなタイトルのこの連載では、森さん自身の体験なのだろうか、一人の日本人らしき男性が、NYで、東京で、人に出会い出来事を重ねていく様子がポエティックに綴られている。それは、写真作品のように、静かで、美しく、ロマンティックだ。

連載「Letter to my son」イメージ © Eiki Mori Courtesy of KEN NAKAHASHI

「連載は今回の作品とも深く連動していて、どちらも、祖父、父、息子のように世代の異なる登場人物3名の思いが、錯綜しながらも重なり合い、時間や都市を超えて生き続ける、強固なつながりのようなものを描きました。それぞれの登場人物の感情が過敏に揺れ動くイメージ、その片鱗だけでも触れてもらえたら」(森さん)。

この“手紙”が、今回のパフォーマンスにどうつながってくるのかも、楽しみだ。

writtenafterwardsとのコラボレーション

もうひとつ楽しみなのが、今回の衣装をwrittenafterwardsの山縣良和が手掛けること。前回のF/Tでは真っ赤な衣装が作品の大きな鍵となっていた。それだけに、今回どんな化学反応が起こるのかも見どころだ。


『A Poet: We See a Rainbow』衣裳のためのスケッチ © Yoshikazu Yamagata

「作品は、いろいろな世代の登場人物が出てくるとはいえ、半自伝でもあります。これまでに自分が体験してきたこと、今まさに体験していること、そしてこれから体験することが、時間や空間、時代をも超えて、過去/現在/未来に点在する自分の感情を刺激して、その感覚だけが記憶の中に、ある種の秘密として残っているのでは……?と、空想めいたことを考えていました」(森さん)。

そんなふうに、空想的だけどリアルな感覚に、衣装を通して共感・共振してくれる人として、山縣さんが浮かんだという。森さんから山縣さんに、キーワードや、コクトー、パゾリーニ、ロルカ、ホイットマンなどの詩の一節を伝えて、コラボレーションが進んでいった。

「あとは、各々が自由に発想の爆発を重ねて、完成直前に2つの世界を「融合」できたら。きっと、良い摩擦のようなものが生まれると思っていて。その摩擦熱を源にパフォーマンスを仕上げて、公演で放出したいです」(森さん)。

家族の先にある「密度の濃い感情のつながり」

最近、世間ではLGBTがブームとも言えるほど話題に挙がることが多い。少しずつ認識は変わってきているように感じるけれど、実際の状況は意外に見えていない気もする。社会の価値観は、時代や状況によってつねに変化するし、それは何もセクシャリティの問題に限ったことじゃない。ジェンダー、ナショナリティ、仕事の環境や条件、結婚、子供がいるかどうか……。女性に限っただけでも、自分たちを分別する項目は数え切れず、トピックごとに、当事者だったりそうじゃなかったりする。自分と異なる立場の人に思いを馳せることは、とても難しい。理解されない悔しさを経験した人もいるだろう。では、さまざまな分別のどちらか、そして両方が触れ合うラインに立たされていることを自覚しながら、他者との違い、そしてつながりを感じてみたら…?

© Eiki Mori Courtesy of KEN NAKAHASHI

「家族」に続く作品のテーマを聞いたところ、森さんの答えは、「あえて言葉にするなら『家族』というつながり方のその先、またはその奥にある『密度の濃い感情のつながり』」だった。その感覚が、池袋の街のあちこちで投げかけられる。

森栄喜の作品に出会った人は、自分の価値観のゆらぎに気づくことだろう。

 

フェスティバル/トーキョー18
まちなかパフォーマンスシリーズ『A Poet: We See a Rainbow(ア・ポエット:ウィー・シー・ア・レインボウ)』

日時: 
10/20(Sat)17:00 / 20:00  ※予約優先
10/21(Sun)15:00
10/22(Mon)15:30 / 18:00

会場: 
10/20(Sat)ジュンク堂書店 池袋本店 9階ギャラリースペース
10/21(Sun)南池袋公園 サクラテラス
10/22(Mon)東京芸術劇場 劇場前広場/ 東京芸術劇場 ロワー広場

入場無料、先着順 ※10/20(Sat)のみ、事前予約を受付中。ジュンク堂書店池袋本店1階サービスコーナー、もしくはお電話にて。(TEL 03-5956-6111)

※10/21(Sun)悪天候中止。天候に関わらず、公演の当日12時に上演の可否をF/T公式ホームページにて発表。ただし、それ以降に主催者の判断により変更になる場合もあり。※10/22(Mon)15:30の会場は東京芸術劇場劇場前広場、18:00の会場は東京芸術劇場ロワー広場で実施。※10/22(Mon)15:30が雨天の場合には東京芸術劇場 ロワー広場で実施。天候に関わらず、公演の当日12時30分に上演の可否をF/T公式ホームページにて発表。ただし、それ以降に主催者の判断により変更になる場合もあり。

フェスティバル/トーキョー18 URL: www.festival-tokyo.jp
東京芸術祭2018 URL: http://tokyo-festival.jp/2018/

森栄喜 もり・えいき

1976年石川県生まれ。2014年『intimacy』で、第39回木村伊兵衛写真賞を受賞。『tokyo boy alone』(2011)、『Family Regained』(2017)などの作品集のほか、同性婚をテーマにしたパフォーマンス『Wedding Politics』(2013-2016)がある。F/T17では新しい家族の形を提示した映像作品『Family Regained: The Picnic』を池袋西口公園、豊島区庁舎で上映した。2018年11月にはKEN NAKAHASHIギャラリーで個展開催、12月には東京都写真美術館でのグループ展に参加する。


Photo: Shun Wakui

Text&Edit: Satoko Shibahara

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