現在、国立新美術館で開催中の展覧会「ファッション イン ジャパン 1945-2020 —流行と社会」。会場には、性別問わずあらゆる世代の観客が訪れている。これまで、日本人デザイナーのパリコレ進出など、海外での評価を起点に語られることの多かった日本のファッション。それとは異なり、本展は戦前の洋装、戦中のもんぺから始まる。戦後と現代のファッションには、どんなつながりやストーリーがあるのか?前編に続き、展覧会を企画した一人である国立新美術館の主任研究員・本橋弥生さんにお話を聞いた。
90、00年代は、ストリート発カルチャーが時代を席巻する
──90年代や2000年代は、一気にストリートファッションの雰囲気が強くなりますね。ファッションブランドの服だけでなく、ギャルやゴスロリといったものも混じってきて、これらが同居してたんだなあと改めて驚きました。当時、これほどストリートファッションがブームになるのは日本特有だったのでしょうか?
90年代のコーナー。「アンダーカバー」や「A BATHING APE®」など、当時は裏原系と呼ばれたブランドの背後に、「アルバローザ」などのギャルが好んだ服が並ぶ。Photo : Ken Kato
今回は海外の動向と詳しく比較していないのですが、90年代の『FRUiTS』といった日本のストリートをスナップした雑誌は、海外でも人気だったようです。突飛な組み合わせとかメイクが、斬新に見えたのでしょう。私が一時期ロンドンで暮らしていたときも、パンクスとか見た目で趣味がわかる人たちはいたけれど、それと比べて、日本は同じ好みの人が集まる傾向がある気がします。90年代に限らず、竹の子族とかロカビリーの人も、好きな服を着て集まったり、どこかに繰り出したりしていて。だからストリートでも目立ったのかもしれませんね。
達川清/HYSTERIC GLAMOUR 1988/Courtesy of POETIC SCAPE
『FRUiTS』8月号No.13 表紙/1998年/ストリート編集室発行/個人蔵
原点回帰し、装う意味を考える
──当時の渋谷原宿は、今ではびっくりするようなファッションの人も普通に歩いていた記憶があります。今は表現の場も、ストリートからSNSに移っているのでしょうか。
SNSの影響が大きいのは確かです。本展も、受け手・作り手・メディアの三者の関係に注目していますが、メディアでは2008年以降のiPhoneの登場が大きな転換点だと考えています。個人がピンポイントに欲しい情報を得るようになったので、いわゆる全体を覆うトレンドはつかみづらい。そのなかでも、「くらし系」やファストファッションが普及した反動として注目される動向など、いくつかピックアップして紹介しています。
終章、未来のコーナー。さまざまな規模のブランドが、サスティナブルに取り組んでいることがわかる。Photo : Ken Kato
──今は、誰でも手軽に低価格・高品質のものを買えるようになりましたよね。現代のファッションは、着る人にとってどんな表現やツールになっていると思いますか?
原点回帰というか、ほんとうに着たいものを着られる分だけ買う、という流れを感じます。例えば、80年代は日本が経済的に豊かで、みんなが服をたくさん買っていましたが、それと今は異なります。ファストファッションも、SDGsの観点からサスティナブルに対応しはじめて、大きく方向転換しつつありますよね。
2010年代のコーナー。「Mame Kurogouchi」や「sacai」など、第一線で活躍するブランドの服たちが。Photo : Ken Kato