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自分を肯定してくれるように思えた… 山内マリコさんのマイベスト映画『ふたりのベロニカ』

自分を肯定してくれるように思えた… 山内マリコさんのマイベスト映画『ふたりのベロニカ』

何度も観返しているもの、生き方の指針になっているもの。面白い作品はたくさんあるけど、「マイ・ベスト」は?山内マリコさんに、愛してやまない一本を教えてもらいました。

ふたりのベロニカ

クシシュトフ・キェシロフスキ | 1991年 | フランス・ポーランド合作 | 98分

作品世界を吸い込みたい、吸い込まれたい 純文学のようでもあり、詩のようでもある美しい映画

高校生の時に観て以来、流し観も含めれば50回は観ている映画が『ふたりのベロニカ』です。一時期はDVDを流しっぱなしにして、部屋をこの映画の空気で満たしてホッとする、アロマのような使い方さえしていました。私は〝泣けて、笑えて、心があったまる映画〟が大好きなのですが、『ふたりのベロニカ』はそれとは全然違って、意味がわからないところも辻褄が合わない部分もある。だけど破綻はなく難解なわけでもなく、繊細な感覚そのものが描かれていて、観るたびに作品世界に吸い込まれてしまう映画です。公開当時、世界各都市ごとに異なるディレクターズカットを作る〝マルチシナリオ〟のようなことを試そうとしたんだそうです。結局それは実現されなかったけど、確かに全編に複雑な編集が施されていて、そういった細やかな仕掛けによって、世界の神秘に触れているような感触がある。キェシロフスキ監督にはいろいろ思惑があったけど、説明すると陳腐になるからと結局何も語らなかったんだそうです。

映画にはポーランドとフランスに住むふたりのベロニカが出てきます。ふたりは名前だけでなく、生まれた日も容姿も同じ。ポーランドのベロニカが歌いながら死んでしまうと、彼女の存在を知らないはずのフランスのベロニカも何かを感知して音楽をやめてしまう。そしてある日、自分の運命を試しているみたいな男の人に出会うんです。運命っていうと、どうしても恋人同士の、私とあなたでひとつみたいな話になりがちですけど、『ふたりのベロニカ』は違って、自分が孤独ではないのは、どこかにもう1人の自分がいるからだということを描いてみせる。私自身、10代の終わりに、同性の友達こそが自分の片割れになりうるのではないか?ということをずっと考えていたので、この映画が、ある意味で特殊な自分の考え方を肯定してくれるようにも思えたんですね。

スーパーボールや紐など、映画の中にはオブジェがいくつも出てきて、物への愛着や執着にも物語を感じさせ、同時に人と分かち合うことはできない類の感受性を描いています。観ているこちらの感情をあまり揺さぶってこないのも好きなところ。ベロニカが何かを発見したりときめいたり。ひたすらに彼女だけが感じる、その微かな感情の揺れが心地いいんですよね。光や音の美しさなど魅力はいっぱいあるんですが、まぁ何を語ったところで、結局は主演のイレーヌ・ジャコブの可愛さに尽きる、という話でもあります(笑)。清らかで優しい、女の子のいい部分が映されていて、だけど男性の幻想を負わされるような描かれ方はせず、セックスをしている場面さえも自然体。うたた寝したり、水を飲んだり、そういう生活と地続きのものとして描かれているところも大好きで、彼女が動くのを眺めているだけで幸せな気持ちになります。愛の真実を声高に叫ぶのでも、壮大なラブストーリーでもなく、静謐な空気の中で本当に大切なものを見せてくれる。そんな映画です。

 


その他のマイ・ベストは

開始1分でボロ泣き⁉︎ 柄本佑さんのマイベスト映画『駅馬車』

十年、二十年後にまた観たい。中条あやみさんのマイベスト映画『ライフ・イズ・ビューティフル』

ふたりのベロニカ

クシシュトフ・キェシロフスキ | 1991年 | フランス・ポーランド合作 | 98分

名前も年齢も容姿も同じ、2人のベロニカの不思議な運命の物語。カンヌ国際映画祭で女優賞と国際映画批評家連盟賞を受賞した。(販売終了)

山内マリコ やまうち・まりこ

>> 1980年生まれ。『あのこは貴族』が映画化決定。近著に『あたしたちよくやってる』『選んだ孤独はよい孤独』など。

Photo: Takao Iwasawa (The VOICE MANAGEMENT), Styling: Risa UedaHair&Make-up: Raishirou Yokoyama  Text: Satoko Muroga (RCKT),  Mako Matsuoka, Aya Shigenobu, Hikari Torisawa 

GINZA2019年8月号掲載

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