「こんにちは。私、クレマチス インテグリフォリア ビクター ヒューゴと申します」
初対面の弟の彼女にこう挨拶されて、もう小姑根性は瞬時に吹き飛び、薄ら笑いしながら、ただただ混乱。ん? 呪文? えーっと、インテグリフォリアって何だ、インテリゲンツィアなの?ビクター・ヒューゴのフランス語読みはビクトル・ユーゴーだよね。ああ、無情で即降参。親の期待大の文豪入りネームってどういうこと? わかりやすく言うと文学トッピングで、河竹黙阿弥珠緒とか鶴屋南北マナみたいな? 3000あるといわれるクレマチス品種の中で、とにかく名刺じゃんけん優勝候補間違いなしか。
しかもビクターは名前負けしていない。パープルレイン型パフスリ—ブのような花びらは深くて濃い紫色。花芯もあえての紫で大人っぽいワントーンコーデ。つけまつ毛バッサバッサの押し付けがましいガ—ベラとは違って、1枚1枚、花びら同士群がらず適度な距離が保たれている。花びらの量で勝負せず、それを声高に発信することもなく機嫌よく楚々と咲いている。
ところがビクター、孤独が好きなんだろうと思わせて、実はトレリス(支柱)なしでは生きていけないか弱さ。え、そうなの? このギャップがたまらないのか。弟もこれにやられたのだろうか。気がつけば蔓に巻かれてがんじがらめ。生来の“モテ”を身につけている、ブーケ界の玄人さんに拍手を!