07 Mar 2022
田原桂一が愛したミューズ、話題作『奇跡』〜GINZA読書クラブ〜

take my breath away、 crush on you、love-charm…読んだ後には、好きで好きでたまらない系の英語のフレーズが次々と浮かんできて、脳内フェスが始まる!そんな、小説『奇跡』を紹介したい。実在のモデルがあり、登場人物は一部、実名。さまざまなエピソードをベースに展開されている。
主人公の博子が、初対面から6年後に田原桂一と偶然京都で再会した瞬間から狂おしい恋が動き出す。当時、彼女は梨園の妻、彼はパリを拠点としている世界的な写真家。田原桂一は、いまGINZAで活躍するファッションフォトグラファーたちにとっても敬愛すべき憧れの存在でもある。

撮影:新潮社・筒口直弘
その芸術家の彼が虜になった女性が田原博子だ。再会のシーンでは<乳白色の淡い万筋の夏塩沢に羅の帯を締めていた>かと思うと、ランバンのワンショルダーの白いイブニングドレスを着こなす。ナチュラルボーンなセンスの持ち主で、さらに田原との時間でその審美眼に磨きがかかったことが本書ではうかがえる。ただ美しくておしゃれなだけではなく、お鮨屋さんで喧嘩をして手元にあったバゲットで桂一の頭をポカンとやったり。聡明で可憐な佇まいなのに、大胆で気風がいい。その魅力に周囲の人々は惹きつけられていく様子がわかる。
誰にも止められない恋が、やがて揺るがぬ愛になり、二人は博子の息子・清之助に全力で愛情を注ぐ。歌舞伎の名門に生まれ、子供の頃から鋭い感性を持ちながら、田原と暮らして紳士として芸術家としての生き方も体得する清之助。嘘偽りのない純粋な気持ちを貫くことの葛藤と喜びについて考えたくなる一冊だ。
出会うべくして出会った二人の狂おしい愛の物語をぜひ。
『奇跡』
林真理子 著
(講談社 ¥1,760 、撮影:北尾 渉)
発売1週間たたずに重版、話題作です。
Text:GINZA