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ニットデザイナー・三國万里子が“日常”を編み、綴るエッセイ集〜GINZA読書クラブ〜

ニットデザイナー・三國万里子が“日常”を編み、綴るエッセイ集〜GINZA読書クラブ〜

新刊や話題の一冊にフォーカスする“GINZA読者クラブ”。今回は、人気ニットデザイナーの三國万里子さんが発表した初めてのエッセイ集『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』をご紹介。


3歳で祖母から編みものの手ほどきを受け、長じて後は多くの洋書から世界のニットの歴史とテクニックを学んだ三國万里子さん。編み図の入った作品集は発表するたび、好評で、〈気仙沼ニッティング〉や〈ミクニッツ〉といったブランドでもニットデザイナーとして活躍している。
そんな三國さんが自身のことを初めて本格的に書いたのが『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』。友人とのメールのやりとりから生まれたというこのエッセイ集では、なにげない日常を繊細な言葉で紡いでいる。

編み物ファンの支持も厚い、まさに今をときめく人気デザイナーの三國さんだが、ニットという世界に自分の居場所を見つけるまでにはかなり時間がかかったという。時系列も内容も混ぜこぜに並べられた文章を読むうちに、一人の少女が自分の居処を模索しながらもその都度しっかりと物事と向き合いながら歩んできた道のりが浮かび上がる。

夫となる人との出会い、息子の成長、人生の道標となりいつもやさしく導いてくれた叔父……。家族や仕事仲間など、さまざまな人物との関係が丁寧に語られる。それだけではなく、“物”に対しても同様に小さな物語が存在しているのだ。出合うべきタイミングで目の前に現れた骨董の指輪や、大人になってから自分で取り寄せた人形まで。

出会った人、見た景色、言葉の記憶……。読み進めていくほど、三國さんの懐に大事にしまってあった瞬間を覗き見したような感覚に。いや、不思議なことに目の前にその情景が思い浮かぶのだ。まるでその出来事を自分が経験したかのように、すぅっと頭に忍び込んでくる。さらに、眠っていた自分の些細な思い出も蘇える気までしてくる。

学校に馴染めなかった三國さんは〈「社会」を主人公にして物語を組み立てようとする時、正しいのはそこに適応する者で、適応できないのは努力が足りないから、という話の筋道になってしまうことがある〉と本書で書いている。

〈周りの人とうまくやっていくことの大切さ〉というのは、一つの答えに過ぎず、輪の秩序を保つために無理をする必要はない。そもそも馬が合わないなら、他の場所で仲間を探せばいいのだ。

生きていると壁に打ち当たり、自分の在り方に迷うことがある。たくさんの情報が溢れている世界で、見失いそうになる大事な瞬間に気付けるのは自分だけなのかもしれない。その端々で思いもよらない出合いによって、自分という人間像が徐々に築き上げられていく。そうか、苦しくなってもその場所が自分には合わないだけなのかもしれないと、この文章を読んでまた前を向けた。

大人になり、いつの間にか“社会”のど真ん中に投げ出されている。ぎゅっと張り詰めた状態の私たちに、三國さんの言葉はじんわりとした温かさをもたらしてくれるはずだ。

 

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(新潮社)
三國 万里子 著
三國万里子 ニットデザイナー エッセイ 新潮社
定価: ¥1,650
公式ホームページ

三國万里子 みくに・まりこ

1971年新潟県生まれ。2000年、お菓子と手編みニットの販売会をスタート。2009年に初の著書『編みものこもの』(文化出版)を上梓、ニットデザイナーとしてデビュー。以来、“編んで楽しく、着てうれしい”をモットーに多数の本を出版。現在は、手編みニットブランド〈気仙沼ニッティング〉及び、編みものキットブランド〈ミクニッツ〉のデザイナーも務める。

Text: Nico Araki

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