何もかもが倍速で移り変わる街、東京を舞台に、テクノロジーを駆使して活躍する魅力的な女性たちをご紹介。
GINZA GEEK GIRL おしゃれでギークな彼女たち – 実験的科学系ミュージシャン やくしまるえつこ
やくしまるえつこ
音楽家として「相対性理論」など数多くのプロジェクトを手がけるほか、生体データから人工衛星まで用いた作品を次々に発表。ドローイングやインスタレーション作品、朗読、ナレーション、CM音楽、楽曲提供やプロデュースワークなど、さまざまなフィールドで活動。
NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]
新宿・初台の東京オペラシティタワーにある、メディアアートのミュージアム。入場無料の『オープン・スペース 2016』展が5月下旬よりスタート予定。
ポップミュージックのフィールドで活躍するミュージシャンでありながら、生体データを公開したり、オリジナル楽器を制作したり、素数を譜面化して音楽を作ったり。まるで世界のすべてを手のひらの上にのせて確かめる研究者のような活動をする彼女に「どうしてギークな活動をしているの?」を聞きました。
音楽にとってテクノロジーの魅力とは?
「子どもの頃から、電話機や蛍光灯や冷蔵庫なんかが発する音が好きでした。学校から帰ってきたら、時報に電話してずっと聴いていたり。蛍光灯の“ジジジ”とか、冷蔵庫の“ブーン”とか。なので、音楽にとってのテクノロジーというよりも、やくしまるにとってはテクノロジーが否応なく発してしまう“鳴らざるをえない音”がそもそも音楽に興味をもつきっかけでした。でも、冷蔵庫の音をひたすら聴いてくれる人はあまりいないので、みんなが耳を傾けるポップミュージックの中で“鳴らざるをえない音”に気付かせるような、ささやかな陰謀をいつも仕掛けています」
その陰謀とは…?
「たとえばポップスの中にEOGという瞬き(眼電図)や脈拍や脳波などのデータを使った演奏を入れたり。どの生体データもある程度は自分でコントロールできるんですけど、どうにもできない部分も大きい。dimtaktもセンサーが物凄くシビアなのでミリ単位の動きや方位で音が変わります。そんなテクノロジーは実は歌との相性がいい。気持ちではどうにもならなくて、自分はただの媒体であるという点でやくしまるえつこという人間を通して歌にするのと同じです」
dimtakt
傾きや位置情報など、たくさんのセンサーが内蔵されたオリジナル楽器。ちょっと動いただけで音が変わってしまうので、操れるのはこの世でやくしまるさんだけ。「次元のしもべにならないと動かせないくらいシビアな楽器です」
お話を聞いていると、そもそもご自分のことを機械のように思っているような…?
「やくしまるは自分が人であることに興味がないんです。身体がジャマだし、煩わしい。荷物もお財布すら持たないし、早く電脳化したいし、分子になって移動したい。円城塔さんとの作品は、タンパク質になって作りました」
こだわりを感じるファッション。「洋服」のことはどう考えているのでしょう?
「世界と自分との境界線が衣服です。むき出しでは受信する情報量が大きすぎるので。ステージ衣装はライヴのコンセプトが最初にあるのでそれを具現化するアイコンのようなもの。たとえば昨年は『算額』をテーマにFACETASMと作りました。算額音楽をジェフ・ミルズと宇宙に奉納するライヴだったので、巫女のような衣装で、前掛けがハニカム構造になっています」
そのライヴ中、しばしば目撃されているのが……。
「ライヴ中もiPhoneを見てます。天気予報とか気圧とか座標とか、ただの数字や情報を。そこになにも恣意的なものはないし、そういう天気なだけ、ただそれだけ、というものは安心しますね。自分の音楽も、その音楽がそこにあるだけって状態にしておきたい。受け取る人が変換器なので、その人の自由にしてほしいです。音楽も、生体データも。そのデータをトリガーにして、家の電気のスイッチにしてもらってもいい。やくしまるは情報を提供するだけ。たとえばそれらを基に作られたロボットたちが、ある日反逆とか革命を企てるかもしれないけれど、それは今やっていることを突き詰めた結果、世界をひっくり返さなくちゃいけなくなるってこと。やくしまるはそれでいいと思うんですよね」
相対性理論×Jeff Millsのライヴ『回折Ⅲ』(2015)にて
「宇宙へ奉納する算額音楽」というコンセプトに合わせて作られたハニカム構造の巫女衣装と。ヴァーチャルリアリティ・ヘッドセット〈オキュラス・リフト〉を着用してステージコントロールを行う。
スライムシンセサイザー
トップ ¥27,000(インファナニマス )
スライムを触ると音が鳴り、触る位置によって音程が変わる6音色のシンセサイザー。
Yakushimaru Experimentではやくしまるさんが、制作者のドリタさんの演奏と共演。
素数の人力聴覚化楽曲やオリジナル楽器演奏者とのセッション、円城塔とのコラボ作を収録した実験コンセプトアルバムYakushimaru Experiment『Flying Tentacles』発売中(写真左)。相対性理論NEWアルバム『天声ジングル』発売中(写真右)。7月22日には日本武道館公演『八角形』も。