元エース刑事の藤(戸田恵梨香)と新米警察官の川合(永野芽郁)の奮闘を描く『ハコヅメ』(日本テレビ、毎週水曜)4話。捜査一課に頭数としてカウントすらされない交番女子二人が事件を解決に導きます。8月4日分から2週にわたって放送されるのは「特別編」。放送時間も22時10分からなので、お間違いなく。
戸田恵梨香×永野芽郁『ハコヅメ』4話。どんなに使命感があろうとも、腹も減るし眠くもなる
大きな事件の裏ではいつも日常が流れている
「どれだけ大きな事件が起きていても、日々別の事件が起きます。それを防ぐのも私たち警察官の仕事です」。当たり前のことだけれど、警察を描いたドラマで聞くこの言葉には、はっとさせられる。ドラマの中では普通、物語を展開させる事件のことだけが描かれ、時に起こる「別の事件」も、実はメインの事件と繋がっていた、なんてことがほとんど。けれど『ハコヅメ』4話は、事件の裏で過ぎる日常こそが解決の糸口に繋がっていることを描いた。
3話で痴漢被害に遭った女子高生・彩菜(畑芽育)の聴取に失敗し、真実を聞き出せなかった川合(永野芽郁)。しかし川合の作った似顔絵によって、彩菜を襲ったらしき連続傷害事件の被疑者・安田(北澤ひとし)が浮かび上がった。藤(戸田恵梨香)とともに特捜(特別捜査)本部に呼ばれた川合は特捜の面々の「コワモテ博覧会」ぶりに驚きを隠せない。
特捜の指揮をとる捜査一課の米田(矢柴俊博)は、所轄の刑事たちを堂々と「コマ」として扱い、捜査員たちの睡眠時間も一切考慮しない。けれど米田も「刑事のおっさんたちより中高生の安全確保が最優先」と、あくまでも事件解決と市民の平和を最優先した結果の振る舞いなのだ(にしたってひどい話だが)。当然、藤や川合のような「交番女子」は頭数にすら入れられていない。被疑者の絞り込みに多大な貢献をしたはずの二人は通常任務へと戻される。
捜査あるある、地方署の二段ベッド壊れがち
交番前で道を聞かれ、管轄内の診療所が移転したことを知らなかった川合は藤に「管内一周パトロールしておいで」と言われ、暑い中管内を巡り、グルメ情報を中心とした独自の地図を作り上げる。地図を見て「この和菓子屋星3.5って低くない?」と聞く交番所長・伊賀崎(ムロツヨシ)のセリフからは、彼も所轄のことを熟知していることが伝わってくる。
刑事課が1週間泊まり込みで捜査を続けても、めぼしい成果は上がらない。様子を見にきた藤、川合は刑事課係長・北条(平山祐介)に指示を受け、応援として捜査に参加。彩菜の元へ向かうが、彩菜には相変わらず拒否されてしまう。さらには「捜査方針を変更する」と被疑者の洗い出し直しがなされることに。しかし川合を信じていた藤は、源(三浦翔平)とともに安田の張り込みを続ける。
今回は「捜査あるある」がいくつも詰まっていた。例えば「張り込み中にハンバーガーは食べにくい」こと。「防犯カメラを確認し続けると目がつらくなる」こと。「布団で寝たくても、ベッドが壊れてたりおっさんだらけだったりで仮眠するどころではない状況がある」こと……。
連続傷害事件の犯人を追うという大きな目的のもと限界まで働いている面々。けれども人間だから、どうしたって眠りたいし、食事もするし、疲れは蓄積する。こればっかりは使命感だけで乗り越えられるものではない。どんな仕事であろうと、誰であろうと共通する、ささやかだけれど根本の部分がしっかり描かれているから、共感もするし笑ってしまう。
『踊る大捜査線』を通っていない警察官のドラマ
「あと何度眠れない夜を捧げたらこの事件を解決できるんだ」
源のつぶやきは、もちろん本当の思いから出た言葉だし、刑事ドラマにあってもおかしくない発言だ。でもこのドラマではむしろ、このセリフは藤にからかわれるために存在している。その匙加減がこのドラマの肝であり、魅力だ。
そういえば4話では、『踊る大捜査線』を知らない川合に伊賀崎が「とうとう「踊る大捜査線」を通らずに警察官になった猛者がいるよ」と嘆くシーンがあった。その後、藤も『踊る』どころか『あぶない刑事』も『太陽にほえろ』も通っていないことがわかる。「ドラマに憧れて警察になったわけじゃない人たち」が描かれていることこそが『ハコヅメ』の面白さだ。
川合はとうとう再度彩菜からの証言を得て、改めて安田を追う。安田の動きを知った特捜は「コマ」に出る幕を与えないが、町山署の面々は総出で藤と川合、山田(山田裕貴)を抜け出させる。ここで、川合が「別の事件」が起きないようにと所轄管内のパトロールを重ねていたことが功を奏して安田の居場所を突き止め、逮捕に繋げることができたのだ。
ちなみに、インパクトの強い似顔絵として登場し、2週にわたって川合らを振り回し、挙句の果てに情けない声をあげて逮捕されていった安田役の北澤ひとしはロビンソンズというコンビで芸人をやっている。普段の彼は猫を愛し、猫に愛される羨ましい体質の持ち主で、「ロビンソンズ北澤の猫」というTwitterアカウントでは無防備な猫たちの姿が見られるので、気になる人はぜひチェックして欲しい。
脚本: 根本ノンジ
演出: 南雲聖一、丸谷俊平、伊藤彰記
出演: 戸田恵梨香、永野芽郁、三浦翔平、山田裕貴、西野七瀬 他主題歌: milet「Ordinary days」
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator たけだあや
イラストレーター、ときどき粘土作家。趣味の多い京都府出身。
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