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遠野 遥『破局』| ゆがんだ青春と狂気のオーディナリー

遠野 遥『破局』| ゆがんだ青春と狂気のオーディナリー

男女3人をめぐり、恋愛小説の 「こういうことってありそう」が書けた

国内の文学賞で最大級のお祭りといえば、芥川賞と直木賞。2020年7月、遠野遥さんは、初ノミネートで芥川賞の栄誉に輝いた。まだ20代だが、どこか泰然自若としている佇まいも目を引く。おしゃれな雰囲気と相まって、メディアにも引っ張りだこだ。

「最近は生活も落ち着いてきましたが……。おしゃれですか? あまりこだわりはないですね。このTシャツももらいもので、実は着られれば何でもいいタイプです(笑)」

受賞作となった『破局』は、《私》こと陽介の語りで進む。陽介は、日吉と三田にキャンパスがある大学の4年生で、母校の高校ラグビー部のOBとして後輩たちの練習に参加しながら、公務員試験突破を目指している。同じ大学に麻衣子という恋人がいるが、将来は政治家になりたいという意識高い系の彼女との仲は順調とはいえない。あるとき陽介は、友人・膝に誘われて、彼のお笑いサークルのライヴへ。そこで、1年生の灯と知り合う。恋人・麻衣子との関係に行き詰まりを感じていた彼は、積極的に接近してきた灯と、新たな恋を始めるのだが……。

受賞決定の前から、多くの読者がこの小説の語りの異質さや、主人公の人格的な特異さに目を瞠り、書評や感想を寄せていた話題作。

「登場人物の誰にも共感できなかった、という感想をツイッターで見かけたりしましたね。『この主人公はリア充ですね』と言われ、陽介はこんなに恋愛に苦労しているのに……と意外すぎて驚いたことも。『いまどきの若者らしさが出ていた』とかも多くて、陽介たちが簡単にくくられてしまうことには少し違和感を覚えました。でも、そんなふうにも読めるんだと発見もありました」

陽介の内面の声や立ち居ふるまいのどこに妙な感じを持つかは読み手によって違うだろうが、たとえば、つきあう女性に対しては常に気遣いのできる紳士的な面があるのに、自分を律するルールやマナーには過剰と思えるほど固執する。男女共用トイレで便座を上げたままで出てきたり、滑り台を登っている灯の下着を覗こうとしたりするマイルールを逸脱する他者には強い怒りさえ抱く。

かと思えば、麻衣子とのホテルデートで、彼女がシャワーを浴びに行った間に自分の抜け落ちた陰毛をわざわざ観察し、考察したりもする。

「陽介はいま見えるものしか見ていないというか。だから、ここにないものやいない人のことをあまり考えられない。常にそんな意識で生きている気がします」

小説では、何か事件が起きたときに、驚いたり逃げたりする普通の反応を書いても面白くならない、というのが遠野さんの弁。

「先日、カツセマサヒコさんの『明け方の若者たち』(幻冬舎)という小説を読んで、すごくわかると思ったんです。主人公が親友に真剣に慰められているシーンがあって、親友はいい言葉をかけているのに、当の主人公は親友の靴下の先が破れそうになっていることばかりに意識がいってる。切羽詰まった状況でも、みなが同じように反応するわけでもないと思うし、中にはカフェで食事中に事件が起きても『いまパスタを食べないと伸びちゃうな』とか全然関係ないことを考える人がいることを描く方がリアルな気がします」

本書で遠野さんがいちばん書きたかったのは、旅行のシーンだとか。

「陽介と灯が北海道旅行をするところが好きなんです。雨が降ってきてもあえて1本の傘に入ろうとするとか、部屋に引きこもってDVDを見始めても結局見ないとか。恋愛中のカップルがするような要素がいろいろ書けたなと。だって、『破局』は、主人公が女性とつきあって、別れて、また新しい彼女とつきあって……という小説ですもんね」

 

『破局』 遠野 遥
『破局』 遠野 遥
主人公の陽介の青春を彩るのは筋トレ、ラグビー、ふたりの女性との交際…。友人の膝が青臭くお笑いへの夢を語る真っ直ぐさとの対比も興味深い。タイトルの意味が胸に迫る衝撃のラストまで一気読み。(河出書房新社/¥1,400)

 

遠野遥が激写。執筆のお供はこの3つ!

 

遠野 遥 とおの・はるか

1991年、神奈川県生まれ。東京在住。2019年に『改良』(河出書房新社)で文藝賞を受賞。同作でデビューする。女装に目覚め、もっと美しくなりたいという渇望から、己のアイデンティティを突き詰めていく主人公。その複雑でユニークな心理を怜悧に描いたその一作が、瞬く間に話題となる。2020年『文藝』夏季号で「破局」を発表。同作で第163回芥川賞に初ノミネート、受賞を果たす。

Photo: Hiromi Kurokawa Text: Asako Miura

GINZA2020年11月号掲載

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