花の仕事をしていると、小さな驚きや発見がいくつもあって、季節や気持ちに敏感になる。この連載は、そのきらめきやインスピレーション、自分を取り巻く素敵な出来事を、言葉や写真で書き出す様な、そういうもの。日常とファッションの関係を、ベッドで眠る前の3分間に。(photograph by Shun Wakui)
フローリスト・越智 康貴の”花咲くかげに” 04 – ドラマを感じる『エルメスの手しごと』展
表参道ヒルズを訪れて観た『エルメスの手しごと』展。
イベントにはエルメスのアトリエで日々制作をしている職人たちが来日していて、鞄やジュエリー、スカーフや時計など、さまざまな製品(エルメスでは”オブジェ”と呼ばれている)の制作風景の一部を見ることができる。
”モノを人が作っている”っていう事を、忘れがちになってしまう昨今。それはきれいなものになればなるほど、作っているところが想像できなくてそうなってしまうのだけれど。
会場に入ると、10を超える手しごとのブースがあり、各所で職人達が手を動かしている。ルーペで見ないとわからないようなものから、トンカチのようなものでダイナミックに作っているものもある。
シルクスカーフの縁を、少し丸めて糸でまつっていく女性。単純な作業の繰り返しになることが多そうだけど、肩とか凝らない?と聞いたら、
私たちってスポーツ選手みたいなものなの。筋肉も、その作業のためについてきちゃうからね。
と答えてくれた。趣味を聞いたら、飼い犬の美しさを競うコンテストに参加すること、と言っていて、クスりときた。おしゃべりしながら観ていくことができて楽しい。
シルクのネクタイは、デザインによってその厚さが違い、実際に針を通させてもらって体感した。薄い生地だといいけれど、厚い生地だと大変ね、と舌を出す彼女。
なぜこの仕事を?
リヨンの生まれだから、シルクが好きなの。
と素敵な笑顔。
スカーフのデザインをトレースして色を出す製版職人は、その作業1枚に1300時間かかることもあると言っていたので驚いた。けれど誇らしげに一言、
エルメスのメゾンで描けることが私にとっての宝物です。
他の職人とも会話して、技術のことはもちろん、休日の過ごし方とか、大事にしていること(家族との時間、と答える人が多かった)を聞いた。今まで、出来上がったオブジェと接する機会はあったけれど、そのオブジェひとつができるまでのことを一部でも見れて、より手に取りたくなった経験だった。
そして、それを生み出す職人達がとても素敵で、熟練された技と情熱を感じることができた。一人一人のドラマと共に。
ぬくもりのあるエルメスのオブジェ。そこにはエルメスの哲学と共に、職人たちのセンスが宿っている。
エルメスの手しごと展 “アトリエがやってきた”
表参道ヒルズのスペース オー(渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ本館B3 11:00〜19:00 最終入場は18:30)にて、3月19日まで。入場無料。