2022年10月2日(日)まで、代官山にてイラストレーター松原光の個展『if』が開催中。抽象表現に取り組んだ作家の新たなフェーズを見にいこう。
イラストレーター松原光の個展が東京開催。形と色がユーモラスに組み合わさる
鮮やかな色の上にグラフィカルな線が重なる。そうすると、それまで見えていたのとは違う物の姿が浮かび上がって、難しいことはなにもしていないはずなのに、どうしようもなくおかしくてかわいい。そんなウィットとキュートネスが合わさったイラストを描く松原光氏は、『ポパイ』の音楽特集号の表紙や〈ラコステ〉とのコラボレーションなどで注目され、今もっともヒップなアーティストの一人だろう。
福岡から始まった彼の巡回展が東京でファイナルを迎えるというから、これは行っておきたい。松原氏の作品は、「これ、アレに見える」というように具体的なものを想起させる表現が多かったけれど、今回は、作家がここ数年間模索していたという抽象表現が発表される。色と形の可能性を追求、でもユーモラスなところはそのまま。アイコン的存在にもなっている二つの丸を重ねた目の表現も、丸を増やして増やしてさらに新たなモチーフへ。
大学卒業後は25歳までいろいろな職を経験していて、そこから独学でイラストを始めたという松原氏。美術の勉強をしていなかったからこそ、最初から線画などのシンプルな表現へ向かったらしいけれど、シンプルほど難しいのは世の常ではなかろうか。そして、こんなふうにオリジナリティを出すことはもっと難しい。
イラストを始めた時の松原氏は、とにかく自分が好きな既存のスタイルを真似していったそう。そうしてたくさんの基本パターンを学んで、トレースして、鍛えて、それらを組み合わせることでスタイルが作り出されていったのだろう。確かに彼のイラストは、部分だけを見るとなんてことはない図形や線だ。でも、その組み合わせ方、伝えたい感情や感覚が、オリジナルなのだ。そう考えると、やっぱりファッションと似ているなとも思ったり。ブランドからのコラボの誘いが多いのも当然なのかもしれない。
個展『if』では、「もしアレがこうなったら…」「もしアレとアレを組み合わせてみたら…」といういろいろな夢想が絵の中で広げられている。会期中は、〈ラコステ〉のポロシャツカスタムや似顔絵などわくわくなイベントも。イラストの楽しい実験は続く。