クラシック回帰もあってか、「ハウンドトゥース柄」のファッションが今季のコレクションを席巻、街でも見かけるようになってきた。私たちを魅了するこの柄の雑学をまとめました。
千利休もお気に入りだった!? 秋冬トレンド「ハウンドトゥース(千鳥格子)柄」のアレコレ
日本の千鳥格子
縁起がいいって本当?
ハウンドトゥース柄は、日本では千鳥が飛んでいる様子に見立てて「千鳥格子」と呼ばれる。では千鳥とはどんな鳥か?チドリ科の鳥は頭と背が薄茶でお腹が白い野鳥を指し、万葉集や古今和歌集にも登場している。日本で古くから「千鳥」と呼ばれてきたのは、チドリ科の鳥を含む野山や水辺に群れる小さな鳥たち、その総称である。「千」はたくさん群れる様子を表すとも、鳴き声の「ち」だとも。千鳥は「千取り」さらに「千の福を取る」ということから勝負運が強くなる象徴でもあり、飛翔のイメージも相まって縁起のいい吉祥紋様のひとつと言われている。
あの千利休も愛用していた?
織田信長、豊臣秀吉に重用され、茶道千家の始祖、茶聖などと言われる茶人の千利休。そんな彼が好んで取り入れていた茶道具の中にも千鳥格子柄を見つけることができる。その柄は、茶道の世界では利休の名前を冠して「利休間道」と呼ばれ、縹と浅葱の非常に目の細かい千鳥格子で構成されているのが特徴だ。間道とは縞模様(縦縞、横縞、格子縞)のある裂のこと。利休間道は色調も格子柄も簡素ながら素朴な風情がある。現存する茶入(陶磁器製の茶器)の名品である「銘 松屋」に添えられている仕覆(茶器を入れる袋)は利休が贈ったものとされているが、こちらも利休間道の布が使用されている。
お菓子でお・も・て・な・し
ひよこのようにぷっくりとした体型と短いクチバシが愛らしい千鳥の紋様は、日本でも古くから利用されてきた。家紋など単体で使われることもあるが、小紋で群れを成していたり、「波千鳥」や「浜千鳥」のように水や水辺の植物の意匠と組み合わせられたり。抽象化した「丸千鳥」「千鳥卍」などもあって、そのバリエーションは非常に豊か。幾何学模様の「千鳥格子」も多彩な千鳥柄のひとつである。また、吉祥紋様でもあることから、縁起ものが好まれるお菓子のモチーフとして使われることも多い。特に「波千鳥」は波を世間にたとえ、大波小波も一緒に乗り越えるという意味から、夫婦円満、家内安全を表すのだそう。グラフィックでも十分愛らしいのにお菓子になると、可愛さ倍増。しかも縁起もいいなんて!お祝いごとの手土産や贈り物に悩んだら、千鳥のお菓子をぜひ。
千鳥の下で待ち合わせ
千鳥格子は工芸や建築の分野でも使用される言葉。岐阜県の飛騨地方に伝わる伝統的な木組みの方法で、350年以上前に考案されたものだと言われている。角材の両面に厚さ2/3ずつほぞ(切り込み)を入れて組み合わせられており、縦横の桟が交互に表裏に出る不思議な格子柄である。この千鳥格子の考え方を建築に利用しているのが建築家の隈研吾だ。2007年のミラノ・サローネでは飛騨高山の組み木のシステムを利用した「Chidori」というドーム型のパビリオンを設計。新潟県長岡市の市役所「アオーレ長岡」(写真左)では、千鳥の語源から着想を得、小さな鳥がぱらぱらと飛んでいるような状態を建築に採り入れた。
一見、経糸と緯糸が交互に交わる織物のように見える飛騨高山の千鳥格子。縦の桟と横の桟が交わる箇所に切り込みが入っており、ぴったりと重なる。釘などを打たずに木を組むだけで形ができあがるパズルのような仕組み。
2012年に建てられた新潟県長岡市の市役所「アオーレ長岡」。市役所というと重厚なイメージだが、市民に開かれたやわらかい建築を目指し、木が用いられた。地元の越後スギを用い、たくさんの千鳥が羽ばたいていくような建築となった。Photo: Erieta Attali
そっくりさん見つけました
寝ても覚めても千鳥格子