イナ・ジャン写真展「Mrs. Dalloway」がG/P galleryにて5月28日(日)まで開催中

イナ・ジャン写真展「Mrs. Dalloway」がG/P galleryにて5月28日(日)まで開催中

イナ・ジャンは、NYを拠点に活動し現代写真とファッション写真の両分野で国際的に活躍する若き写真家の一人である。日本では、昨年の「GINZA」や「花椿」の誌面での展開や、女優の宮沢りえを起用した「SENCE OF PLACE」のメインビジュアルなどが記憶に新しい。

彼女の作品には、多くの場合、その写真空間に存在しないはずの別の空間が入り込んでいて、カットアウトの手法を用いて、デジタル上でも物理的にも写真イメージをレイヤーに重ねてコラージュし、グラフィックというより造形的な、新しい写真言語をつくり上げているのが特徴だ。

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a blue paper 2010 

© Ina Jang, Courtesy of G/P gallery

彼女の写真は、基本的にはアートや現代写真の文脈で語られるべきものだと思うが、なぜ多くの人がその作品から「ファッション写真」的なるものを感じるのか、については、写真雑誌「IMA」(vol.11)の蘆田裕史の短いエッセイ「せめぎあうアイデンティティーーイナ・ジャンに見るファッション写真的なるもの」で触れられているので興味のある人は参照してみてほしい。

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in her own room 2017
©︎Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

さて、そんなイナ・ジャンの今回の新作「Mrs.Dalloway」のシリーズは、20世紀モダニズム文学を代表するイギリスの女性作家であるヴァージニア・ウルフの小説『ダロウェイ夫人』(1925年)から着想を得て、ルーブル美術館、ポンピドゥセンター、メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館などに所蔵されている近代絵画をネガフィルムで複写し、その断片をサンプリングし、コラージュした写真作品であるという。

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a blue bottle in a red room 2017
©︎Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

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i,sigh,bye 2016
©︎Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

それぞれの作品タイトルからも、その写真イメージがその小説の一場面を視覚化しているようにも読み取れなくもないが、あくまでもそのイメージ自体は匿名的で抽象性を保ったままである。

また『ダロウェイ夫人』という小説は、三人称の地の文(外的時間)に一人称の心理状況(内的時間)を入りこませる「意識の流れ」という、20世紀初頭に流行した小説の手法で書かれている。この手法は、登場人物の意識や無意識、そして思考の飛躍などを小説の時間にとらわれず自由に描くことで、単一の時間ではなく複数の時間を小説に持ち込むことが可能で、当時としてはかなり前衛的でその後の文学の歴史にとっても大きな分水嶺になったと言われている。(わかりやすく言うと、ドラマ「24」はリアルタイム(外的時間)に沿ってすべてが進行するけど、ジャック・バウアーや登場人物の心理葛藤(内的時間)が事細かに描写されていくことで、24時間という時間の流れが崩れて複数化していく感じを想像してみてほしい)。

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an afternoon 2016

©︎Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

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untitled portrait 2017
©︎Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

話を戻すと、そもそも写真には、それを撮った時間、現像する時間(今はデジタルだけど)、その写真を見ている時間、そしてそれら行為の間に流れる時間など、複数の時間が内包されていて、静止画ではあるが(であるからこそ)、その描写力も相まって、「時間芸術」の一つであると考えられている(というか「時間」に言及しない芸術なんてない気もするが)。

そういう意味では、今回の彼女の作品には、モダニズム文学に流れる時間、小説の中にある時間、近代絵画に流れる時間、それを撮影した時間、カットアウトし作品を制作した時間、その作品を見ている現代という時間など、まさに複数の時間が流れていて、それぞれの時間やその関係性に考えを巡らすのが面白い。
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the bird 2017
©︎Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

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viewing 2017
©︎Ina Jang, Courtesy of G/P gallery, Tokyo

とここまで書いて、突然”タイム・コラージュ”という言葉を思い出した。1984年に出版された、メディア・アート界の巨匠ナムジュン・パイクの書籍のタイトルである。コラージュとは、もともと関係のない素材を一つの平面に糊付けして、特殊な効果を生み出す技法のこと。まさに、この「Mrs.Dalloway」という平面作品のシリーズには、複数の時間が”コラージュ”されていて、文学作品『ダロウェイ夫人』をめぐる、イナ・ジャンによる「時間」への旅行記としても、見る(読む)こともできる。

”タイム・コラージュ”トラベローグ。今、この作品を見ることは、過去から流れる複数の時間をまたぐ旅であり、現代においてはその意味を探る旅であり、そして何より、新しい視覚言語を楽しむ旅なのである。

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イナ・ジャン「Mrs. Dalloway」
G/P gallery
2017年4月13日(木)- 5月28日(日)
http://gptokyo.jp/archives/3812

牧信太郎

編集者。プロデューサー。1978年京都市生まれ。横浜国立大学卒業。主にアートや現代写真の仕事。『美術手帖』コントリビューティング・エディター。トークイベントの企画やモデレーター、展覧会カタログなども手がける。過去には、写真雑誌『IMA』など。

Twitter: @shintaromakiinstagram: @shintaromaki

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